ダンジョン攻略(下)
タクトたちは引き続きダンジョン攻略に勤しんでいた。
もうかなりの階層まで潜り込んでいるはずだが……
Sランクとはいえそろそろ攻略できてもおかしくない頃だった。、
「ふう、この階層のモンスターは全滅できたな」
「ええ。それにしても広いですね〜。1フロア全部調べ上げるだけでも一苦労です」
「ご主人様〜、疲れてしまいました……申し訳ありません」
「ああ、じゃここら辺でいったん休憩しようか」
「私サンドイッチ作ってきました。食べますか?」
そう言ってメディは持っていたポーチを開けて手包を解く。
そこには色とりどりな具が入ったサンドイッチが並んでいた。
「とても美味しそうね」
「もちろん食べるよ!あそこの壁に囲まれた場所に座ろうか」
「はい!」
囲まれた場所に陣取れば四方を気にしなくて済む。
モンスターを全滅したとはいえ警戒するに越したことはないだろう。
俺たちは座りこんでサンドイッチを食べる。
「うまいな、これ」
「ありがとうございます」
魔物の肉も入っているが意外にこれがジューシーで美味い。
3人とも食べるのに夢中で静かになる。
タクトは静かな空間の中ポツリとつぶやいた。
「静かだな」
「そうですね、モンスターはもう全滅させましたし」
「それに空気の流れを感じない」
「何かから隔離された場所みたいですね」
出入り口が2つあるから中の空気の流動性は良いのかと思ったが、1階層で既にもう一つの出入り口を見つけいているため内部に外の空気が回ってくることはない。
静けさといい空気の止まり具合といい、立ち止まると妙な息苦しさを覚える。ダンジョンはどこもそんなものだが。
「今何階だっけ?」
「もう25階層です」
「いつもならもう攻略できてもおかしくない頃だよな」
「はい。まだあそこに下へ続く階段がありますね」
「いつもはSランクダンジョンって普通何階層くらいなのかしら?」
アイリが聞く。
「ソロで潜ってた頃はだいたい15階層くらいでしたよ。最長でも23階層です」
「じゃあ今最高記録更新中なんですね」
「そうですね。これもモンスターが活性化しているのが原因なんですかね」
「ええ、魔王が眠りから覚めてからもう1ヶ月も経つんですもの。魔王城周りのモンスターたちもかなり凶暴になってるらしいですよ」
メディが質問する。
「魔王って何年くらい生きているんですか?」
「もうかれこれ300年になるらしいな」
「魔王ってなぜいなくならないんですか?」
確かにこれを疑問に思うことは子供の頃よくあった。
これだけ時間が経ってれば誰かが魔王を倒しても不思議じゃないと。
しかし聞いた話によると魔王の強さが圧倒的すぎるということだった。
「魔王の強さが圧倒的すぎるらしい。そもそも魔王お付きの将軍すら倒したことがある奴はいない」
「そんなに強いんですか」
「ああ、らしいぞ。そういえば以前人類滅亡に追い込まれたことがあったんだよな。俺はあまり詳しくないけど」
それを聞いたアイリがそのことについて語り始める。
「300年前のことですね。魔王が領土をどんどん拡大していき、その過程で数々の村、集落が崩壊に追い込まれたと聞きます。逆らったものは全て皆殺しにされたそうですよ」
「ひどいですね……。立ち向かった人はいないんですか?」
「何人もいました。その中には最強と謳われた伝説の勇者も……。でも彼らも皆魔王の将軍に敗れ去ったそうです」
タクトもそれは聞いたことがあった。各国の勇者と呼ばれる最強の人たちで結成したパーティでも倒せなかったと。
メディが続けて聞く。
「ではなぜ人類は滅ぼされなかったんですか?」
「魔王が眠りについたからよ。魔王が全ての権力を握っているため魔王なしでは侵攻ができません。それで将軍たちは魔王と共に魔王城に閉じこもってしまったのです」
「それでその間ずっと魔王たちは侵攻して来れなかったんですね」
「ええ、そう書物には書いてあるわ」
「それで今目覚めたとなると以前のように滅ぼされないか心配ですね」
「それもそうね。だけど今のところは侵攻してるとか皆殺しにしてるとかの噂はないし大丈夫よ。これからどうなるかはわからないけれど」
話しているうちにみんな食べ終わったようだ。
「よし、みんな食べ終わったことですし下に行きましょうか」
「そうですね、早くクリアしちゃいましょう」
*ーーーー*
長い道のりだったがいよいよか。
「ここの階層だけ雰囲気が違いますね」
「ああ、ここがボス部屋だな」
俺たちは蝋燭に囲まれた一本道をゆっくり進んでいく。
「どういう作戦でいきますか?」
「敵にもよるがきっと倒すだけなら俺一人で十分だろう。後ろで見ていればいい」
「わかりました」
どんどん進んでいく。
「長いな。何なんだ、ここは」
「無駄に長いですね」
「ボスモンスターは何か長い方が有利に戦えるのかしら?」
そして正面にボスの台座が見えた。
「あれがボスの台座ですね」
「ああ」
近寄ってみる。
「誰もいませんね」
「確実にボス部屋のはずなんですが……」
「ちょっとあの壁が不自然ですね」
そう言いながらアイリは横の壁を差す。
「ええ、切れ目があるわ」
俺たちは近寄ってよく見てみると、確かに四角く切り取られた跡があった。
「よく気付きましたね」
「固有スキル『目利き』でこう言うものは一発で見抜けますから」
「さて、問題はこれをどうするかなんだが」
タクトたちは押してみたり引っ張ってみたりしたがびくともしない。
「もうこうなったらぶち破るか」
「でもどうやって?」
「こうやるんだよ」
タクトは壁に向かって体当たりした。
すると中でバキン、と言う音がして開かずの扉が開き出した。
ーーキィィィィ……
「あ、あれは……」
扉が開いた先には赤色の宝箱があった。
通常と比べてかなり体積が大きい。
それに赤い宝箱かと思いきやところどころ金色の筋も入っている。
これは中身もかなり期待できそうだぞ。
「宝箱ですね。てっきりボスが出てくるのかと思いました」
「俺も勝手にそう思い込んでました。何が入ってるんだろうな」
「かなりレアもののはずですよ!早速開けてみましょうか」
メディが鍵を取り出して宝箱を開けようとする。
ーーカチャカチャ
しかし一向に開く様子がない。
「開けれるか?」
「いえ、赤用の鍵を使っているのですが開きません」
メディは苦戦している。
「う〜ん、いろんな鍵を試してみたんですが一向に開く気配がありません」
「じゃあもうしょうがない、力技でやるか」
「わかりました。ではお願いします」
タクトは剣を抜いて宝箱を切るイメージをした。
中身を切らずに宝箱だけ切る……縦に側面を切った方がいいか。
「ふっ!」
ーーザクッ
宝箱をの側面を斬った。
よし、うまく切れたはずだ。後は中から財宝がジャラジャラと……
3人静かに見守ったが何も出て来ない。
「何も出てきませんね」
「どうやら金目のものではなかったようね」
しかし代わりに呼吸するような音が聞こえる。
ーースピー…スピー…
な、なんだ?生き物でも入ってるのか?
タクトが中身を覗いてみると足のようなものが見えた。
「何か寝息のような音が聞こえます」
「早く出してみましょうよ」
タクトは中身を引きずり出した。
ーーズリズリ
「ふにゅ?ムニュムニュ」
『こ、子供!?』
「ふ、ふぇ……?」
その宝箱に入っていた少女?は、あどけない顔でタクトら3人を見る。
しかしすぐにその顔は歪みだす。
「ぶ、ぶええぇぇ〜ん!」
その場で泣き出してしまう。
いつもならタクトはなだめるのだろうが、宝箱から少女が出てきたことでいまだに状況が飲み込めないでいた。
「な、なんだ?宝箱から人が出てきた?何故?そもそも宝箱の中で人を閉じこめておいて死んだりしないのか?」
「ご主人様、落ち着いてください。まずはあの子から話を聞くしかありません」
「あ、ああ。そうだな」
タクトが少女に近づこうとする。
するとアイリが何か察したのか後ろを指差す。
「タクト君!あれ」
タクトは後ろを振り向く。
すると背後には……ボスがいた。
「やれやれ、やってくれましたね」
ボスは薙刀を構えてこちらへやってきた。
「カミラ将軍!」
少女はそう叫ぶと涙を両手で拭い、ボスのそばに駆け寄った。