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看病

「コラ、今日も飲んでる!もう、ちゃっかりタクトさんまで!も〜、そんなんじゃ本当に腕鈍っちゃいますよ!戦闘は一瞬が命取りなんですから!」

「大ジョーブ大ジョーブ。ここ最近相手の攻撃喰らったことないしな」

「俺も戦闘ではヒラヒラ避けれるからさ〜。ほら、見てよこの華麗なステップ!」


ギルマス所属のパーティのメンバーの華奢な男、カイトは華麗……なのか?ふらつきながらも俊敏に動く。


「お姉さんも一緒に踊らない?」


ーーヒューヒュー


ゴッチョたちが冷やかす。


「踊っちまえよ姉ちゃん!」

「お〜っと、ギルマスパーティメンバー1のチャラ男に誘われた〜!」

「お姉さんは華麗なステップにやられて踊ってしまうのか〜」


お姉さんは冷静に対処する。


「踊りません〜。私チャラ男には興味ないから」


素っ気無い態度で断る。カイトはガックリ項垂れる。


「お〜っと、ギルマスパーティメンバー1のチャラ男がフられてしまった〜」

「華麗なステップでは落ちなかった〜」


一度落ち着いたかと思いきや、その後周りがまたはやし立て始める。


「さあ、ここまではいつも見ている光景!ここからカイトはガッツを見せてくれるのか?」

「お前の底力はそんなものじゃないだろ〜」


それを聞くとカイトは少しずつ力を取り戻したようでさらにお姉さんとの距離を詰める。


「姉ちゃん、俺の顔をしっかりみろ」

「はい、見ました」

「ちゃんと目をみろよ」

「見ましたけど?」

「俺と踊らない?」

「踊りません」


ーーあ〜〜……


周りは意気消沈してしまう。するとゴッチョが聞く。


「じゃあ誰ならいいんだ?」

「誰って……そう言う問題じゃありません。今は職務中ですから」

「じゃあここが社交ダンスする場だったとして、誰がいい?......俺か?」


ーーヒューヒュー


また周りが盛り上がる。


「おーっと、ギルマスが誘った〜!」

「いかつい強面の顔と屈強な肉体に似合わない優しさにやられてしまうのか〜?」

「踊っちまえよ〜、姉ちゃん」


お姉さんが口を開く。


「あなた妻子持ちでしょ?」


言われたゴッチョも粘る。


「妻子持ちじゃ、踊れねえか?」

「ええ。まあチャラ男よりはマシですけど、妻を差し置いて他の女を誘うような男と踊りたくありません」

「俺が妻子持ちじゃなかったら?」

「いっつも酒ばっか飲んでる人は嫌です」


ーーあ〜〜……


また周りは意気消沈してしまう。


「ギルマスでも破れない!」

「まさに難攻不落!鉄壁の堅城!」

「じゃあ誰ならいいんだ?」


誰が言ったのか、その一言でしんと静まり返る。

しかし束の間、また盛り上がってしまった。


「じゃあ誰がいいんですか!?」

「今ここのギルド内にいる人で誰がいいんですか!?」

「俺とかどう?どう?」



「くだんね〜……」


横の騒ぎを聞きながら思わずギルドの窓際の席で一人呟いた。

タクトは酒の勢いに任せて騒ぎ立てている空気についていけなかった。

今日はお姉さんに紹介してもらったSランククエストが早く終わり、オレンジジュースを飲みながらFランククエストに行っているメディの帰りを待っていた。


周囲の騒ぎは止まらない。どころか大きくなってる気がする。

お姉さんはうんざりした顔で呟くように言う。


「いい加減にして欲しいんですけど……」

「そんなこと言われても誰か決めて貰わないと引き下がれませ〜ん」

「もうこの際この人ならまあいっか、くらいでもいいから早く決めちゃって!」

「ほらほら、早く早く〜」


お姉さんは観念したかのように下を向き、ため息をつく。

少し考えた後、お姉さんは横を向き答えた。


「タクトさん」


ーーヒューヒュー!


一気にタクトの周りが騒がしくなる。


「おい、お前おとなしいだけかと思ったらやるなあ!お姉さんご指名だぞ」

「こんな名誉なことはない。断ったらバチが当たるぜ」

「タクト〜!男を見せろ〜!」

「もうここで踊っちまえよ〜」

「みんなで踊れコールしようぜ!」

「いいなそれ!じゃあいくぜ!はい、踊れ!踊れ!」

「踊れ、踊れ!」


踊れコールが始まってしまった。苦手なんだよなあ……こういうの。

よく見るとお姉さんがこっちに向けてウインクを何回かしている。

お姉さん、何を合図してるんだ……


「うわっ、お姉さんタクトにウインクしてる!」

「おいおい、マジじゃねえか!」

「お姉さんが色目使ってるー!」


はあ、全く……しょうがないな。


「ち、ちが……」


お姉さんが何か言いかけたところでタクトがお姉さんに詰め寄ると周りは静寂に包まれた。

みんなが見守る中、俺はきっとお姉さんが望んでいるであろうと思う言葉を繰り出す。


「Shall we dance?」


言った瞬間周りは何とも言えない空気に包まれた。

しかし一人が笑い出すと周りは一気に笑いに包まれた。


「はっはっは!面白い!ここで踊っていいぞ!ギルマスの俺が許可する!」

「ギルマス様から踊る許可いただきました〜!」

「タクト〜、オレンジジュースじゃつまらんだろ。さあ、飲め飲め」


俺は1杯ビールを飲む。


「もっともっと」


2、3杯と一気に飲む。

酒に弱いわけではないが、やっぱ一気は応えるな。

お姉さんは怒ったような顔をして不満を言う。


「ちょっと!何で一緒になって飲んでるんですか!この事態収束させましょうよ!」


タクトはおぼつかない足取りでステップを踏みながらお姉さんの手を取る。


「踊りましょう。麗しのお嬢様」

「え、ちょ……」


クルクルタクトが回り出す。手を引かれたお姉さんも回り出す。


「きゃっ……ちょっと、いきなりひっぱらないでください」

「申し訳ありません、お嬢様」


タクトは乱れたテンポでステップを踏む。


「もう、飲み過ぎですよ」

「しかしあなたがいる手前、下手なところをお見せするわけにはいきません」

「まだいけるな!ほら、飲め飲め」


俺は4、5、6杯と一気に飲む。

だいぶ最初に飲んだ酒が効いてきた。


俺たちが踊っていると、ギルド内に置いてある楽器で受付の人たちや事務員たちが中から出てきて音楽を演奏する。

あの人たち楽器を演奏できたのか。


音楽が鳴り始めるとこれまでバカ騒ぎだった雰囲気が急になくなり、みんなは静かに俺たちを見守っている。


「おい、俺たちも踊ろうぜ」

「そうだな。Sランク冒険者様と受付のお嬢様を盛り上げるために」


みんな踊りスイッチが入ったようで、酒に酔っていただけの男たちは急に紳士になり、遠巻きにして見ていた女性陣を誘っていく。


「そこのお嬢様、俺と踊りませんか?」

「ええ、ぜひ」


どんどん踊り手がカップリングしていく。

ギルド内は完全に舞踏会と化していた。


俺も本腰を入れてかっこいいところを見せたいのだが、さっきの一気飲みの酔いが回って思うように足が動かない。

それどころか眠ってしまいそうだ。


「ちょ、きゃあ!もう、回るならしっかり回ってください」


かっこいいところどころか、むしろ俺はお姉さんにエスコートされながら踊っていた。

チラッとお姉さんの顔を見る。

お姉さんは酒は飲んでいないものの、少し赤面しながら真面目な顔で踊っていた。

その記憶を最後に俺の記憶は途切れた。



*ーーーー*



う、頭が痛い……

はあ、馬鹿騒ぎの後どうなったんだろう……

右腕に温もりを感じる。

まだメディが起きてないってことは変な時間に起きちゃったかな?

トイレ行ってまた寝るか。

そう思ってベッドから出ようとすると……


「誰!?」


思わず声を上げていた。

右にはメディにしては大きすぎる大人の女性がいた。


「う……ん?」


彼女は顔を上げる。


「あ、あれ?受付のお姉さん!?」


ど、どういうことだ。

俺は記憶を急いであさる。

えっと、あの後踊っていて……

もしかして一夜の過ちを犯してしまったのか!?


「あ、あの!俺たちはベッドの上で何をしてしまったんですか!?」

「べ、ベッドの上では何もしていません!昨日あなたが飲み過ぎて吐いちゃったからずっと看病していたんですよ」

「あ、ああ。そうでしたか。俺はてっきり」

「しませんよ、私はそんな軽く何かをする人間ではないので」


軽くは何もしない……

俺を選んだのも軽く、ではないのだろうか。

『タクトさん』と名前を言われた瞬間を思い出してちょっと恥ずかしくなる。


「俺を選んだ理由って何ですか?」

「べ、別にあなたに興味があったとかじゃないですからね!大人しそうな人に頼めば『興味ない』とか言ってうまく場が治るんじゃないかと思っただけですよ!」


お姉さんは口が早くなる。


「でも俺とその後踊ってたじゃないですか」

「も、もうああなったら踊るしかないでしょ!?それとも何なんですか?嫌だったんですか!?」

「い、いえ……そういうわけでは……」


勢いに圧倒されてしまう。


「それはともかく、ここはどこなんですか?」

「私の家です」

「ええ!?ほんとに何もなかったんですか!?」

「何もありません!」


ちょっピリ残念。まあ覚えてないんじゃ意味ないけどさ。


「そういえば、メディは知りませんか?」

「さあ、昨日はあなたの左で寝ていましたが……トイレでしょうか」


お姉さんとやりとりしているとメディがいいタイミングでやってくる。


「ご主人様、朝食の準備ができました」

「え、ここで作ったの?」

「はい。残り物でもお食事を作るくらいはできますから」

「ちょっと、勝手に食材使ったんですか?」

「申し訳ありません。代金なら私が払います。しかしご主人様の朝食を抜くわけにはいきませんから。もちろんお姉さんの分も作りました」

「そう、まあそれならいいです。じゃあ自慢の朝食を食べにいきましょうか」


お姉さんは起き上がる。

俺は起き上がろうとすると、頭に岩でも当たったかのような感覚に襲われる。


「うっ、頭痛い……」


クラクラして立ち上がれそうにない。加えて強烈な眠気に襲われる。


「仕方ないですよ、昨日あんなに飲んだのですから」

「私はご飯運んできますね」


メディが朝食をとりにいく。


「動けそうにないな」

「幸い今日はお休みですし、看病しますよ」


お姉さんが看病か。ちょっとドキドキするぞ?どんな要求をしようか。


「いいえ、看病なら私がするので大丈夫です」


キッチンから朝食を持ってきたメディが言う。


「いえいえ、私が調子に乗って止めなかったことに少し責任を感じてるんです。私が責任を持って看病させてもらいますからご心配なく」

「私は奴隷なのでご主人様が体調不良になられたら看病するのは当たり前です」


二人の視線が交差する。その瞬間、ちょっと寒気がした。

やっぱり今日は大人しく寝ておこう。

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