敵か味方か
「先輩…聞いてくださいよ。また下村チーフに大量の修正指示されちゃいました。」
「下村さんにチェックをお願いすると結構細部まで指摘をくださるからね。にしてもこの量はなかなか…。」
「本当に毎回厳しくて嫌になっちゃいます。やっぱり女の敵は女って感じですかね…チーフの鬼。」
「下村さんは優しい人だよ?」
「えー、そうなんですか?」
「おーい、牧田。ここまで全部聞こえてるぞ。わざと私に聞かせてるんじゃないなら、声量下げときな。」
「あ、すみません!…やばっ、チーフ地獄耳だったのか。」
「いや、流石に下村さんまで聞こえる声で話してたよ?無自覚だったのね。わざとじゃないのは分かったから、今は手を動かそうか。」
「はーい。」
――
「牧田君、最近持ってくる書類の出来が良くなったから成長したと思ってたんだが、今回のはダメだな。もう新人じゃないんだし、しっかりしてもらわないと困るよ。いつまでも若いからってだけで許される歳でもいられないでしょう?寿退社の時代でもないんだし、色恋にうつつを抜かしてる場合じゃないんだから、だいたいね…」
「課長、お話中に失礼します。」
「あれ?下村君どうしたの?」
「牧田に指導中のところ恐れ入りますが、午後の会議の件で、ご相談したいことがあるので、今お時間いただけないでしょうか。」
「そうか、分かった。牧田君戻っていいよ。とりあえずこれは修正して再提出ね。」
――
「あれ、牧田は今からお昼?今日は遅いのね。」
「あ、先輩!お疲れ様です。聞いてくださいよ。さっき課長のところに書類提出行ったんですけど、久々にお小言が始まっちゃったんです。最近はあまり無かったので、完全に油断してました。」
「それでお昼が遅れたのね。セクハラ発言とか大丈夫だった?」
「危うく、話がそっちに脱線しかけたんですけど、チーフが別件で相談に来たので、途中で終わりました。」
「それなら良かった。ラッキーというより、下村さんの機転かもね。けど、何で今日はお小言になったの?最近なかったでしょ?」
「若干急ぎの書類だったので、チーフのチェックを飛ばして課長に提出しに行ったんです。最近お小言に遭うことも減ったので大丈夫かなと思って…。」
「なるほどね。そしたら不備の指摘から始まって、お小言になったのね。下村さんがチーフになってからは、課長に提出する前に、チーフのチェックが入るようになったから、お小言に遭わなかったんだね。」
「そうみたいです。さすがに自力ではまだダメでした。」
「きっとセクハラ発言回避も兼ねて書類のチェックしてたのね。下村さんは上司にも部下にも優しいね。」
「みたいですね。女の敵は女だと思ってましたけど、女の味方も女ってことですね。修正版が出来上がったら、反省も含めて先にチーフにチェックしてもらうことにします。」
「それが賢明だね。大変だけど頑張って。」
敵は味方でもあるようで。視点は様々。
やはり人間関係は一筋縄ではいかないものですね。