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魔女の家 1

 叔父の領地に着くまで列車を乗り継ぎ丸二日間かかった。列車から降りてノルテナフスまでは馬車で向かうことになった。


 私は前世の記憶を取り戻してからというもの、全てのもが新鮮に写った。列車の汽笛やガタンガタンと不規則に揺れる音。客室に飾られたステンドグラスのランプシェードが映し出す光は美しく幻想的だった。21世紀を知る私には思わずため息が出る。純粋にときめきを感じていた。


 馬車は舗装されていない道を走っているためか揺れが激しかった。乗り始めて最初の頃は叔父と私は会話を交わしていたけれど、一時間もするあたりからお互い口を開かず、ただ揺れと吐き気を一所懸命に我慢していた。持ってきたバタービスケットも食べる気にもならず座席の上で擦れるような音を出しながら揺れている。


「私はなにをすればいいんです」気分が優れないが、黙っているのにも疲れて私は叔父に尋ねた。


「……」叔父は一瞬顔をしかめ考え込むような表情をしてから、なんでもなかったような笑みを浮かべた。


「ルナはアリア・アヴローカを知っているかい。私たちの何代も前のご先祖様だけど」


「はい。幼い頃から父にアリア様を仰ぎ尊ぶようにと言いつけられていました」


 屋敷の玄関ホールにはアリア様の肖像画が飾ってあった。叔父様のように淡いピンク色の髪の女性。寂しげにどこか遠くを見ているような目が印象的だった。


「彼女が魔導核の発明者であることはもちろん知っているよね」


 私は深く頷いた。さっきまで乗っていた列車も魔導核を動力にしている。魔導核はおよそ二百年ほど前にアリア様が考案したもので、我が一族はその利権で今でも懐具合が良かった。


 魔導核は、かの世界でのエンジンとかモーターのようなものらしい。アリア様は魔素エネルギーを実際に使える運動機関として使えるよう魔導式を作り上げたと聞いている。歴史の教科書にも魔導核の発明のおかげで我が国の文明が飛躍的に進んだ、と載っていた。


「あれはね、実は彼女が一人で作ったものじゃなかったんだよ。実験中の不幸な事故で命が失われてね。開発にまつわることについては、いまでは美談になっているけれど、本当はそんなキレイな物じゃない。多くの不幸と幾人もの命の上に立ってできたものなんだ。」


 叔父の声が激して上がっていき最後は荒々しく叫ぶように言った。私は叔父の剣幕に圧倒されて、うなずくしかできなかった。


「アヴローカが続く限り、アリアが関わった彼らに尽くせ、と父たちから僕らは教えられてきたんだ。私もちょうど君と同じぐらいの歳のころノルテナフスに行ったんだよ。今回は、本当は……君の兄のチャーリーかレオに行ってもらう予定だったんだけど……」


「ねえ、叔父様、私たちはずっと償い続けないといけないの? 何百年もかけて? 信じられない。」


 叔父は曖昧に笑って、首を振った。


「少し脅かしてしまったようだね。償いだなんて考えなくてもいいんだ。ともかく、いまの我が一族の繁栄は彼らのおかげなんだ。私たちはその恩返しに行く、と思ってくれればいいんだ」


 私は叔父の言葉も分からなくもないが、どうも釈然としなかった。遠回しなことばかり教えられて、本当のことがわからない。実はノルテナフスはとんでもないところで、真実を知ってしまうと行きたくないと言い出すかもと思われて、うまく隠そうとしているのかもしれない。


 それにしても……まさか、こんなに重たいことを我が家が背負っていたなんて。ここって本当に「そらみつ」の世界の中なの? と疑ってしまう。「そらみつ」はアイラが主人公の物語だから、それ以外のことってストーリーには描かれていないの当たり前だ、とはいっても退学退場するよりよりハードなルートに入ってしまったのでは、と心配になってきた。


 もうすぐノルテナフスに到着する。不安になったところでどうしようもない。話題を変えようと私はできるだけ明るい顔をして言った。


「ねえ、叔父様、どうして叔父様の髪の色はお父様と違っているの?」


 叔父は呆気にとられたような顔をしたが、すぐに笑顔を作った。


「私も君と同じぐらいの年までは兄上と同じ色だったんだよ。ただ体内の魔素の循環が早くなって濃度が高くなると、なぜか髪の毛が魔素の持つエネルギーと同じ色に染まってしまうようなんだ。それで私の髪の毛の色も変わってしまったんだ」

 

 叔父はどこか遠いところを見つめているような瞳だった。私は不意にアリア様の肖像を思い出した。


「私は小さい頃から叔父様の髪の色が大好きよ。羨ましくってしかたなかったもの」


 白髪が混じっている部分が光に当たって薄桃色に見えるとき、本当に素敵だなと思っている。私も父も兄も髪色はどこにでもいそうな暗い栗色だ。叔父だけは特別に見えた。


「そう言ってくれるのはルナだけだよ。この髪のおかげで随分変人扱いを受けたからね」


 私は片目を細めてフフッと微笑む叔父につられて笑ってしまった。


「変人って。みんな酷いわ」


 まあ確かにお父様もお祖父様も叔父様のことを変わり者扱いしていた。叔父様がみんなに変わり者って言われているのは、ノルテナフスに行ったことと関係があるのだろうか。


 叔父が口を開きかけたとき、外から大きな声が聞こえた。


「旦那様、ノルテナフスに着きました」という声とともに馬車の扉が開いた。

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