映画館
平日の、早朝の映画館。今日、一番最初の上映作品は今話題沸騰中のアニメーション映画の日本語字幕版。
スクリーンの前の規則正しく並べられた席は殆ど誰も座っておらず、席指定の半券になんの意味も見いだせない。
ぽつりぽつりと浮島のように座っている人の共通性のないことないこと。自分を含めて、性別も歳もばらばら。けれどみんな静かにそこに座ってぼんやりスクリーンを眺める。
館内に今日最初のブザーが響き、夜明けの白んだ太陽の光と反比例するようにだんだん照明が消えていく。一瞬世界が暗闇に蝕まれたように無くなり、スクリーンの光とともにまた世界が生まれる。誰も体験したことのないような不思議で輝かしい世界。性別も、歳も、体型も、思想も、何もかもを無視して、誰もをその世界の住人にして、物語は進む。終わりたくないと思う心をも無視して。
そして、もうそろそろ世界は終わるのだと、静かな音とエンドロールがゆっくりと告げる。たくさんの名前が流れたあとに大きく一人の名前が残る。世界の終わりの合図。また暗闇になり世界が終わった。
少しの間を開けて照明が赤白くつきはじめる。また面白味のない世界が始まる頃。
前の世界の余韻を引きずりながらゆっくりと外へ出た。