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第9話

「それで?今日は何の要件だったかな」


 セレナ教授は紅茶を啜りながらその目を細めて何かを思いだそうとしている風に目線を上に向けていた。


「あぁ、そうだった!君が稀代の身体強化魔術師、レント・バンデイム君か!待ちわびていたよ」


 ネズミに毒草を押し付けて遊んでいた癖によく言う。まあその程度で怒っていては仕方ないので、改めてセレナ教授の方を向いて挨拶をする。


「遅くなりましたが、クロード・バンデイム伯爵の三男、レント・バンデイムです。今日は忙しい中時間を空けていただきありがとうございます」


「うむ、礼儀正しいのは良いことだ。私はなにぶん礼儀作法が苦手でね、よろしく頼む、という一言でご容赦願いたい。偉そうに教授と呼ばれてはいるもののまだ11歳だ。多少の不躾は許されるだろう」


 驚いたことにセレナ教授はまだ11歳らしい。つまり俺と一つしか違わない。とんでもない飛び級という奴だろう。前世からの知識を持ちながら、まだ学校に入学すらしていない俺とはえらい違いだ。


「俺としては全く構いませんよ。それで、身体強化の魔術を研究しているとか?俺も個人的に幼い頃から身体強化を使っており、少々通常とは異なる使い方ができるので、少し話を聞いてもらえたらなと」


 そう言ってセレナ教授に説明をしようとすると、セレナ教授は何か得心いったように、


「ふむ、鼻と耳ではないようだな」


 と呟いて、先ほどシュークリームを乗せてきたトレイの端に置いてあったフォークを流れるように手に取り、ガッと俺の目玉の数cm手前までフォークを勢いよく振りかざした。


「ちょっ!!」


 冷や汗をかきながらセレナ教授の手を見ると、ペント兄さんが腕を掴んでおり、ギリギリッと音が聞こえそうなほど力を込めているのが目に取れた。


「何のつもりですか」


 ペント兄さんはいつもの無表情と少し違った、怒気を含む表情でセレナ教授を突き刺すように見ている。


「ふーむ、目でもないようだな。いやすまない。通常とは異なる身体強化というから嗅覚、聴覚、視覚の類いを強化しているのではないかと思ってね。何、元より寸止めするつもりだ。問題はない」


 ペント兄さんはセレナ教授の手からフォークをむしりとるように奪うと、トレイの横に置いた。


 死ぬかと思った。いきなりフォークで襲い掛かってくるなんて不躾がどうとかいうレベルじゃないぞ。この人危険すぎるだろ・・・。


 メルカさんはセレナ教授がフォークを持った瞬間に立ち上がって驚いてはいたが、今は苦笑しながら椅子に座り直している。


「それで、どの部位の身体強化なんだ?」


 驚きはしたが実害はなかったから良し。と自分に言い聞かせ、早まっていた鼓動を落ち着かせてからセレナ教授に返事をする。


「ふぅ・・・、視覚ですよ。後は手足を局地的に強化することもできます」


「なんだ、やはりその類いだったのか。説明してくれるタイミングの様子だったから魔術を行使しているだろうと思って、つい試してしまったよ、悪かった。では早速、視覚の強化をしてもらえるかい?レント君」


 本当にせっかちな人だな。この人は。まあ遅かれ早かれ何かしらの検証をされることには変わりなさそうだ。そう思いながら魔力を操作して視覚を強化する。


「準備はいいか?さて、先ほどと同じ方法だとペント君とメルカ君に余計な心労を与えかねない。よって、私が右腕に身体強化をかけ、その腕で字の書いたボールを投げよう。その文字を認識することができるか試そうと思う」


 この人も部分強化ができるのか。研究をしているというから予想はしてはいたが、少し驚きつつも目に最大まで魔力を注ぐ。

 いいですよ、と言おうと思い口を開いた瞬間、セレナ博士はいつの間にか手に持っていたボールを、いきなり窓の外に投げ捨てた。


「さあ、何と書いてあったか読めたかい?」


 この人の中の辞書には準備するという文字がないのだろうか。驚いたには驚いたが、既に魔力を目に集中させて準備していた為、見落としてしまうなんていう失態を犯すことはなかった。そして、書かれていた漢字をセレナ教授に伝える。


「謝る、という文字の謝です。魔力を集中していなければ見落とすところでしたよ。洒落が効いてますね、先ほどの謝罪も兼ねているんですか?」


 そう言ってセレナ教授を見ると、満足げな顔している。その反面、隣に座るペント兄さんとメルカさんが俺の方を向いて、不思議そうな、何か納得していないような顔をしている。



 ーーーその瞬間、俺は違和感を覚えた。



 何か腑に落ちない、何かを見落としたような、そんな心持ちで再度セレナ教授の顔を見る。するとセレナ教授は先ほどと変わらない満足げな笑顔でこう言った。


「それで異世界人君、君は何しにここに来たのかね?返答次第では先ほど寸止めしたフォークをそのまま突き刺して、君を早急に処分しなければならないのだが」


 俺はその言葉を聞いた瞬間、驚きを隠すことができないどころか、目眩を起こして倒れてしまいそうなほど動揺してしまった。

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