第一話
「おい、健吾。ゲームすんのもええけど、部屋、綺麗にしろや」
築三十年のアパートの一室。リビングと呼ぶべきほど洋風なのかわからないが、とにかくその部屋はジュースの空き缶やお菓子のゴミ、読み差しの漫画までが一面に散らかっていた。
山中幾三。三十ニ歳。引越し業者のドライバーをして生計を立てている彼には、たった一人のそして、最愛の息子がいた。
「ちょ、今スマブラやっとるから、待ってーや」
それが、山中健吾。十四歳。かなり奔放に育てられたのか、お菓子を食べた手でも平気でコントローラーを操作する。
「俺もやんで?」
「おとんやるんやったら、ハンデつけてな」
「それやったら、俺、ピチューでいったるわ」
「それは勝った」
「ゆったな? お前、やったら、負けたら部屋片付けろや?」
「足でも舐めたるわい」
「お前、ホンマにいらんことしかゆわんな」
子も子なら、親も親である。
しかし、口調は乱暴だが、お互いに仲が悪いというわけではなさそうだ。むしろ、一緒にゲームをするのは、かなり仲のいい部類に入るのではないだろうか。
ゲームの決着が着いた。
僅差で父、幾三の勝利だ。
「嘘やん。ありえへんやん。そんなんできるんやったら先ゆっといてーや! 後ろ向きでトラップできるとか誰も思わへんやん!」
「大迫半端ないってゆってる場合ちゃうて。風呂行ってくるから、部屋なおしとけや」
コントローラーを置いて、幾三は風呂に向かった。
「なんでピチューで勝つねん!」
健吾はひとしきり悔しがると、素直に部屋を片付け始めた。この家では、勝者の言うことは絶対なのだ。と言う訳ではなく、健吾も多少の不愉快さを感じる程に部屋が汚かったからだ。
お菓子のゴミを既にゴミが満パンにまで入ったゴミ袋に押し込み、漫画をテレビ台の収納スペースに入れる。掃除機をかけて、床にこぼれ落ちているポテチやら、なんやらのカスを吸い取る。しかし、細かい破片は中々吸い込まれてくれない。
全っ然アカンやん。吸引力カスやん。もうこれ、口で吸ったほうが早いんちゃん?
無能な掃除機はもはや無用。と、指に唾液をつけ、床に落ちているポテチのカスを指にくっつけ、それを舐め取る。意地汚らしいことこの上なしだが、当の本人は、床も綺麗にできてポテチも食べられて一石二鳥と、そそくさと掃除に励む。
狭いリビングの床の大半に唾液が散布されたところで、掃除を止めた。
指は、履いていたスキニーで拭いた。
「あ〜。気持ち悪っ。食べ過ぎで吐きそや」
呟きつつ、綺麗になった部屋に満足する。
「修行せなな...」
ポーズ画面のまま止まっていたゲームを、再び起動させる。
先程同じように、ビーズクッションに座って、テレビ画面の至近距離でコントローラを操作する。
「おー。綺麗になったやん」
幾三がパンツ姿で風呂から上がってくると、流れるように冷蔵庫を開け、缶ビールを取り出す。
リビングにあるちゃぶ台の前に座り、缶ビールを開ける。プシュっと、気の抜ける音がして、少々の飛沫がちゃぶ台の上に飛び散る。それをわざわざ、濡れ布巾で拭う。
一気にビールを煽って、喉を鳴らしながら飲む。
「っかあぁっ! あー! 疲れたっ!」
「おん。そやな」
至福の一時だ。仕事終わりの一杯ほど待ち侘びたものはない。
「あー。ちゃうちゃう。そこはスマッシュはまだ早いわ。もっとダメージ積まな」
「いや、ワンちゃんあったで。今のは」
ビールを飲みながら、健吾のプレーに指導を出す。これも至福の一時だ。
しばらくすると、口を出されるのが面倒になったのか、健吾はゲームをおもむろに切ってしまった。
「晩飯なんなん?」
「冷蔵庫に蕎麦なかった?」
健吾は冷蔵庫を開け、上段、中段、下段と確認する。
「食料ないやん! ちょ、これはエグいわ」
「え? ホンマに? 蕎麦なかった?」
幾三も冷蔵庫に向かい、中身を確認する。
「あれ? ない。え、あったはずやねんけど」
「そうやん! 昨日! おとん、龍平くんと飲んだ時にアテで食っとったやん!」
「え? ホンマにゆってる? 全然記憶ないねやけど」
「そらそうやん! 昨日、泥酔しとったから! アホちゃん!」
「えー。晩飯どうする? 外に食いに行くかぁ」
「自問自答すぎワロタ」
「うっわ。にチャンネラー乙」
「俺、寿司行きたい」
「いや、今月金無いから止めてマジで」
「これが高卒の末路か...」
「喋んな。アホ。お前の親の顔が見てみたいわ」
「いや、ツッコまへんで?」
そんなこんなのやり取りのあと、二人はアパートの向かいの通りにあるいつもの居酒屋に行った。
席は四人がけの座敷が二つ。その他には、カウンターのみで、二十人も入れば埋まってしまう。
よっこらしょ、と健吾が奥のカウンターにつき、その横に幾三も座る。
「せっまいのぉ。ホンマ」
「まぁまぁ、この味やと、このくらいの狭さで限界ですわ。堪忍したって」
そう答えたのは、店主ではなく幾三だった。
「漫才親子やわぁ。ホンマ」
大将が呆れたように言う。
「ほなやったらさ、大将のこと笑かしたるから何かサービスしてぇーや」
健吾が意気揚々とし始める。漫才親子と呼ばれるのはまんざらでもなさそうだ。
「健吾くん、ホンマにそれ好きやな」
「出来すぎた息子ですみません」
「いや、今の別に出来過ぎな要素なかったで」
二人の会話を遮るように、健吾がバッと手を上げる。
「行きます。この前東京行ったとき、おとんがスカイツリーを目にしてっ!」
思いもよらない大声に、居酒屋にいた数人の客は健吾のギャグをかたずを飲んで見守る。
「ほー。これが、スカイツリーか。こっから見たら、近く見えるから、近いツリーやな。アッハッハ」
場が、凍った。
「おとん、とりあえず謝っとけ」
「いや、お前殺すぞ!」
この一連の流れでゲラゲラと客と、大将が笑い始めた。
「ええわー。やっぱり、お前ら最高やわー。なんやろ、その、ラフな感じ? ってのがまたこう...あったかいわ」
「おん、大将。中身のないコメントありがとう。てか、食うてええ?」
幾三は出された冷や奴を受け取って、先に健吾に渡す。そして、次に自分が受け取った。
「手を合わせてください」
「合わせましたー」
「いただきます」
「いただきますー」
幾三が音頭をとり、健吾が復唱する。神聖なこの儀式を終えた後に、二人は箸に手をつける。まるで、小学校の給食のように。
「なぁ」
「なんやねん、大将」
「いっつも思うねやけどさ、ふざけてそれやってん?」
「はぁ? 真面目にやっとるわい! 誰がふざけてやってるように見えんねん! なぁ! 健吾!」
「そうやで! ほんま! こっちは本気でいただきますしてんじゃ! 馬鹿にすんなや!」
「おぉ...なんか...ごめんやで...」
二人のあまりの剣幕につい謝ってしまう大将。
「まぁ、」
静かに幾三が、口を開いた。
「ふざけてやってんねやけどな」
どんがらがっしゃん
椅子から転げ落ちる客。膝から崩れ落ちる大将。
それを見て笑うのはたった二人。
「おま、お前らほんま、漫才親子。阿呆なことしかゆわんな」
「ええねんええねん。人間、阿呆な位がちょうどええねん」
「さいでっか」
「おっきい音立ててどないしたん、お父さん」
厨房の奥から顔を出したのは、後ろに髪を結った、この居酒屋の紅一点。大将の十七になる娘の詩織だ。
「あ! 健ちゃん! 来とったんやったらゆってくれたらええのに!」
「いや、あの、あれやわ。な! 詩織おると思わへんやん! そんなん! おるんやったら先ゆっといてや! 後ろ向きでトラップ出来るって!」
「アハハハハハ! 大迫半端ないってや!」
大して似ているというわけではない物真似にもかかわらず、腹を抱えて笑い出す詩織。
健吾は内心で小さくガッツポーズをした。
「ホンマに、燃費ええ子やな」
「ホンマにやで。カウンター立ったら、客と話し始めて全然注文受け取らへんねん」
「大将のどの遺伝子受け継いだら、こんな愛想ええ子生まれんねやろな」
「多分、受け継いでないかもせえへん」
「わはははははは」
談笑する息子と娘を横目に、父親達も少々アダルトな馬鹿話を弾ませる。
しばらく好きに飲み食い馬鹿話をした後、幾三は席を立つ。いつの間にかお座敷に移って話をしている健吾達に声をかける。
「ほな、俺、先帰るから。お代、あと二千円分くらい置いてくから。詩織ちゃんにもなんか奢ったるねやで」
「やったー! おっちゃんありがとう!」
「健吾は食いすぎ注意で、詩織ちゃんはこいつにベロンベロンに酔っ払ってお持ち帰りされんようにね。ほな、ごっそさんした」
「おー。おおきにやでー」
「おとん阿呆なことゆうなや!」
暖簾をくぐり、帰っていく幾三。来てからかなり時間が経ったこともあり、店内にはもう健吾の他に客はいない。
「詩織。ワレは、朝、仕込みあるから、もう寝るで? 店、後頼めるか?」
「おんおん。いけるで」
「ほな、頼んだわ。暖簾ももう下げとくから。鍵だけ頼んだで」
「あーい。おやすみー」
「おやすみー」
「おやすみやでー」
若い二人に気を遣ったのか、そそくさと奥に引っ込んでいく大将。残された二人は気まずくなるかというと、そうではない。昔馴染みなのだ。今更、互いに遠慮する所も、気兼ねする所も無い。
「何か作ってーや」
「ええでー。何作る?」
せやなぁ。と、考える。言っては見たものの、何があるのかまではわからない。いつもは待っているだけで勝手に大将が出してくれるからだ。
「なんか、あれやな。さっぱりしたもん?」
「おつけいおっけいおけい。なんか飲む?」
「やっぱ、あれやな。あのー。な、この前飲んだやつ」
「黒霧島?」
「もー。ゆおうと思ってたのに」
「絶対嘘やん。ヒヒッ」
詩織はウヒウヒ笑いつつ、戸棚の奥からガチャガチャと黒霧島の瓶を取り出す。健吾が親に内緒で酒を飲み始めたのは、十二の時からだった。詩織の兄である香織に、健吾はよく飯を奢って貰っていた。行くのは居酒屋だったり、フレンチだったりと、バラエティ豊かだったが、どこに行っても必ず酒が出てきた。香織の口癖はこうだ。
「健くん。未成年に酒を飲ませるのは俺も気が引ける。けどやで、二十歳になってから初めて酒飲んでアホみたいにハメ外すよりか、今飲んで、羽目の外し方を知って、二十歳になって周りが酒飲み始めたときに自分が酒に呑まれへんようにするほうが、重要やと思うねやんか」
弟のいない香織にとって、健吾は歳の離れた弟のようなものだったし、一人っ子の健吾も兄のように慕っていた。
だから、昔は香織が言っていることを鵜呑みにしてそれが正しいと思っていたが、最近では、ただただ一緒に酒を飲みたかっただけなんじゃないかとも思い始めていた。
「ホイホイホイっと。ほい、でーけた」
詩織が慣れた手付きで、酒を氷が入ったグラスに注ぐ。そして、再び氷を入れる。
それを、二人分作る。
「乾杯でもする?」
「何に?」
詩織は聞き返す。
「そら、決まってるやん。俺の瞳に乾杯」
「ほー」
呆けた声を出されて、しくじった、と自分の勢いだけのネタを後悔する。
「むっちゃしけたやん! 俺! もう! 帰る!」
「ヒヒヒ」
詩織は馬鹿馬鹿しくて笑ってしまった。
しけたらやっぱ、この手に限るわ。冷や汗かいたわ。
「ま、とりま、今週も学校乗り切った! おつかれさん! 乾杯!」
「かんぱーい!」
がチンと、グラスをぶつけ合う。そして、お互い、冷えた焼酎を一息に煽った。
胃の奥がカッと熱くなるのがわかる。
詩織は、空のグラスを静かに置いた。
「あー。ヤバイ。かなりキテる。やっぱ私、焼酎ちょっと苦手やわ...」
「なんで飲んでん!? しかも、他人の金でやし!」
「アハハ。そやったら、一人で飲む?」
「いや、もうホント。詩織には感謝しかありません。感謝の印に、昔みたいにしーちゃんゆったろか?」
「いや、それはナチュラルにキモいからやめて」
「キモいってなんやねん! てか、もう顔赤なってんで。アテ食べながら飲まな」
健吾は詩織が先程作ったきゅうりの浅漬の皿を差し出してやる。出された皿から、ひょいと手づかみで数枚のきゅうりの輪切りを口に放り込む詩織。
「うん。美味しい。でも、自分で出して自分で食べてお金は幾三さん持ちなんは嫌やな...」
「ええやん、そんな細かいこと気にしやんで。なんやったら、その分俺にサービスしてくれたらそれでええから。どの分って話やけど」
「え、サービスって、健ちゃんに? どんなん?」
健吾の脳裏を昨晩見た動画の内容が駆け巡った。マッサージ。オイル。サービス。濁流のように流れてきたシーンの一部に、詩織の顔が脳内で補完される。
「いや、もう。ホンマにごめん。俺が悪かったわ。どうもすいませんでしたぁっ! あぁぁい!」
健吾とて、一端の男子である。身近な女子でそういった事を考えない訳ではないが、罪悪感との葛藤で胸が押しつぶされそうになる。
「アハハハハハ! それ! この前やっとった食中毒の店の謝罪会見やん!」
こういうコアなネタ通じるから、詩織好きやわ。
「こういうコアなネタ通じるから、詩織好きやわ」
口に出し切ってから、気づいた。健吾もかなり酔いが回っていたとはいえ、痛恨のミスだ。まさか、心の声が漏れてしまうとは。
内心では天地がひっくり返りそうなほど動揺していたが、相手の反応はあっさりとしたものだった。
「ウヒヒヒ! そう? フフッ。ありがとお」
ただの好意と受け取ってくれたようだと、胸を撫で下ろす。
というか、この手、使えんちゃん? 自然な感じで好き好きゆっていくのん。
しばらく今日あった一日の出来事をかなりの誇張とともに面白おかしく話す。詩織も話が本当だとは思わないが、なによりも、面白い。面白おかしければ、話の信憑性なんて些細なことなのだ。
二人共かなり酔いが回ってきて、立つのも覚束なくなる。どうやらお開きのようだ。
「ほな、ほな、ほな、ほな、やでぇ。健吾はもう帰ります」
「あ、うん。送ってくわぃや」
「あぁ...ホンマにぃ? ごめんやでぇ」
「何をゆうとんの。私と健ちゃんの仲やで?」
「いや、どんな仲やねん。ワハハハハハ」
「アハハハハハ」
帰ろうとする素振りは見せつつも、一向に帰ろうとしない健吾。また、帰そうとしない詩織。
なんだかんだ言って二人共、この時間が楽しいのだ。
「ほな、そろそろ帰ろっかな」
「あ! 健ちゃん! 急に立ち上がったら危ないで!」
健吾は急に立ったところ、身体が斜めに押されたように感じて、前につんのめってしまった。
「健ちゃん! ほら、おひや飲みぃや」
「うっ...くっ。ごめんなぁ。ほんまいっつもありがとうやで! こんなしょうもない奴に付き合ってくれて! ありがとうなぁ」
狭い店内を健吾に肩を貸しながら歩いていると、当然の様にカウンターの椅子やらなんやらに身体をぶつけてしまう。
泣きながら何か私のことを喚いている健吾を見ていると、なにか心にくすぐったいようなものを感じた。
なんか、私がいなきゃアカンみたいな? アカン、これ完全に駄目女の発想やわ。尽くしすぎて駄目になる人。あー。私もかなり酔ってんな。
店を出て、ぬるい夜風に当たると少々酔いも覚めたが、健吾はまだ肩を貸してもらっていた。最近背が伸びて詩織を少し超えたが、まだ甘えていたい気持ちもあってしばらくえづくフリをしながら歩く。その度に詩織が心配してくれるのが、嬉しい。普段なら決してこんな醜態は進んで晒そうとしないが、今の事はどうせ明日になれば忘れている。だから、詩織への日頃の感謝だって酔った勢いに任せて羅列できるだけしている。だが、好きというのには少々の気負いが必要だった。
「ホンマに好きやわぁ。ありがとおな。ホンマに」
「さっきからそればっかりやん。フフッ」
数分もしないうちにアパートに着いてしまうのが、良いのか悪いのか。
「ほら、健ちゃん。足元、階段やで」
「うん...」
「ちゃうちゃう! なんでサイドステップすんの?」
「うん...?」
「エラシコみたいな動きしてらんと!」
「ええツッコミやわ...」
「健ちゃん、結構酔い覚めてるん?」
「まぁ、一人で歩けるほどにゃ」
正直に言ってから、後悔する。まぁ、そもそも、言う前に階段を上がりたくなくて、サイドステップやエラシコをしていた時点で気づかれていたかもしれないが。
「ハァ...ほら、上がるで。階段」
「はぁい」
半ば手を引くように強引に上らせる。素直に応じる健吾。
アパートの二階部分のボロい廊下をギイギイ鳴らしながら、歩いていき、一番奥の部屋のドアノブを詩織が捻る。
電気は付いておらず、幾三はどうやら既に寝てしまったらしい。これならば、酒を飲んできたことはバレまい。
「ほら、健ちゃん、靴脱いで」
詩織は、もたれかかってきている健吾の靴を脱がせて、リビングまで介抱する。幾三のいびきが隣の部屋から微かに聞こえている。ソファに寝転がった健吾から手の届く位置に水を置いておいた。
「いける? 水、ここ置いとくからね。吐きそうなったら、ポリ袋も置いとくから」
「ホンマにありがとうなぁ」
「ほんならね。おやすみー」
「おやすみ。あっ」
「なにぃ?」
健吾は身を起こして詩織の方に体を向ける。
「詩織、送っていかんで、大丈夫?」
「それ、無限ループになるやつ! 阿呆なことゆっとらんとさっさと寝ぇや」
「詩織! さ、最後! 最後に!」
と、両手を伸ばしたままの状態で待つ。
「あんた、かなり酔うてんな」
などと言いつつも、応じてくれる詩織が健吾は本当に好きだった。
ギュっと抱き締めた時、切なくなってそれ以上のものを求めたくなるのは分かっていた。だから、軽くハグしただけで自分からすぐに身を引いた。
「ありがとお。現役JKとハグとか、ほんま料金払わなあかんやん」
「アハハハ。またそれ言ってる」
「ほな、もう夜も更けてるしそろそろ帰れ」
「あんたがそれゆうん!? なんか、私むっちゃ都合のいい女みたいやん! ハグするだけして!」
「もー。はいはい。ほな、きいつけてな。おやすみ」
「もうええわ! おやすみっ!」
部屋の扉が開いて、二階部分が軋む音がする。そして、カンカンカンカンと階段を下りる音。
健吾はバッと飛び起き、音も立てずにドアを開け、二階から転げるように下りる。
すぐに詩織の背中を発見して、さらに息を潜める。
ゆっくりと跡をつけていって、ちゃんと居酒屋兼住居に帰っていくのを見届ける。詩織が入ってから数秒後には、電気も消えた。これで本当のお開きだ。
あぁ。疲れたわ。寝よ寝よ。
一本道を引き返し、アパートの階段を二段飛ばしで駆け上がる。部屋のノブをそっと回して、リビングのソファにダイブする。
その時、詩織が置いていってくれたポリ袋と、コップが目に入った。
あいつ、阿呆やろ。こんなとこに置いてったら、俺が酔って介抱されてたのん、おとんにバレバレやん。
コップを煽って流し台に置いて、ポリ袋はスキニーのポケットに詰めておいた。寝苦しかったので、脱いでパンイチになる。
健吾は、大して酔ってはいなかったのだ。そして、先程のハグの感触を思い出しつつ、悶々としながら眠りに入った。
読んでいただき、ありがとうございます。
きつい大阪弁は、スラスラっと読み飛ばしても遜色ないと思われます。
良ければ、ブックマーク等、お願いします。
後日、続編をどんどんと上げていきますので。
ブックマーク等お願いします。ほんま、やってくれたら、嬉しくて、なんか出ます。僕の口から。