満喫
《グラディエーター》で7年間暮らす。
そう縛りを設けた俺は、ボートから降り力強く地を踏みしめた。
二匹の猫達は恐る恐る歩き出した。
海に転落しない限り大丈夫だろう。
島の北側に小高い山があり、草木が生い茂っていた。
台風、津波に備え、どうしても山の頂上に家を作りたい。
そのためにはまず山に登る道を作らなくてはいけない。
その前にやるべき事がある。
今夜の寝床作りだ。
山肌に近く海岸から少し離れた場所に、バナナの葉で編んだテント小屋を作った。
海で遊び疲れた休憩所にもなる。
中にもバナナの葉を敷き詰め、家から持って来たマットを置いた。
俺は大した奴だと自分で自分を褒めた。
猫達が匂いをかぎながら近寄る。
多分トイレか餌探しだろう。
ここにいると野生動物に見えて来るから不思議だ。
テント小屋からそう遠くない茂みに、トイレを作る事にした。
作ると言っても穴を掘るだけだ。
猫用には砂をこんもりと積んだ。
後は食料だ。
缶詰をいくつか持って来たが、早速釣りでもしてみるか。
荒らされていない自然が残る海では、入れ食い状態で魚が釣れた。
だが、見た事もない派手な色合いの魚ばかりだ。
小さいのを砂浜に投げると、ピチピチ跳ねる魚に夢中で猫が遊び出した。
食べ物という感覚がないようだ。
ま、そのうち腹が減れば食うだろう。
日が傾くと一気に海風が冷たくなった。
厚手のトレーナーを来て火をおこす事にした。
マッチとライターは命の次に大事な物。
大量に持ってきたが失くすと大変な事になる。
落ちた枝を拾い集め火をつけると、サバイバル!という感じになる。
後は魚を焼けばいい。
持ってきた金網を石で高くした。
ぱちぱちと焼ける音だけが響いた。
いけない、暗くなる前にランプと懐中電灯を探さないと。
テント小屋に運んだリュックから取り出す。
持参したペットボトルの水、箸も出した。
見渡す限り海が続き、波の音と潮風。
やがて夕日が海と空をオレンジに染め、焼けた魚を頬張る。
海水の塩気がちょうどいい。
その時改めて、この島を買った事が間違いではなかったと気付かされた。
「グラディエーター!万歳!」
大声で叫んでも、人目を気にする必要はない。
マイケルとキャメロンも魚を上手く食べたようで、手で口の周りの掃除をしている。
猫も結構気にいっているのかも知れない。
日が落ちると、全てが暗闇に包まれた。
砂浜に寝転ぶと手で掴めそうな満天の星空。
この全てが俺のものだ。
火が消えると、静かに波の音だけになる。
グラディエーターと俺が一体化したような錯覚さえ覚える。
すぐに片付ける必要はない。
なぜなら誰もいないのだから。
ペットボトルの水を飲み、テント小屋に入った。
毛布を腰まで引き上げると、気持ちいい風に眠気を誘われる。
マイケルとキャメロンもやって来て毛布にくるまった。
俺は今まで味わった事の無い幸せを感じながら眠りについた。