愛と絆と信頼と
最終話です。大変遅くなってしまいました。心からお詫び申し上げます<(_ _)>
みんなが居なくなってから、どれくらい経っただろうか。
一人では広すぎる家に、子猫のヌケと暮らしていた。
畑の世話、家畜の世話、料理や釣り、やることはたくさんある。
それを毎日無言でこなした。
「お久しぶりッピ!」
突然現れたのは懐かしいペンギン。
家の前のベンチに座り、ヌケと遊んでいる時だった。
「久しぶりだな……ペンギン」
「元気ないッピ?」
「いや、大丈夫だ。今日はどうしたんだ?」
「まだアレイボールが残ってるッピ!拾った人は全部使わないといけないッピ」
アレイの事は思い出したくなかった。そしてアレイの規則も嫌いだった。
「返すから処分してくれないか」
この小瓶を拾った俺は、なんてラッキーなんだと本気でそう思った自分がいたはずなのに。
今では厄介ものでしかない。
「そんな事言われても困る……ッピ」
そう言ってペンギンはウロウロ歩き回った。
時折羽をばたつかせる姿が、飛べない鳥のようで和んだ。
「今は困った事がないッピ?」
立ち止まりそう尋ねた。
「そうかな。ただ一つ……」
「なになにッピ?」
俺は琴を思っていた。
本当に愛しているのか。
琴はこんな俺を愛しているのか。
果たして琴が人間になれて、一緒に生きていく覚悟が俺にあるのか。
自問自答を繰り返すも答えは出ない難問だった。
「大変だ!ッピー!!」
突然ペンギンが叫んだ。
ペンギンの見ている方に目を向けると、今まで見た事のない大きな波がたっていた。
「津波、津波ッピー!」
それは牙を剥いた大きな龍のように、グラディエーター目掛け迫っていた。
「ペンギン!消えろ!」
俺はそう叫ぶとヌケと大切な物を、リュックに押し込んだ。
「に、にげないッピー!小瓶を持って下さいッピー!」
そう言われ慌てて小瓶を手にした。
そして一目散に階段を降りた。
「どこ行くッピー?下は危ないッピー!」
叫ぶペンギンを見ずボートに乗り、頑丈そうな木にくくりつけた。
ボートを失えば俺は一生ココから出られないのだ。
波はもうそこまで来ていた。
慌てて階段を駆け上がる。
ゴッーという恐ろしくけたたましい音と共に、波がグラディエーターにぶち当たる。
すんでのところで俺は階段を登りきったが、大波は木々をなぎ倒しながら進む。
俺は急いで家畜やペンギンと共に家に入り、二階に上がった。
この家を作ってくれたひまわりを、俺は信じたのだ。
アレイのひまわりを。
轟音と共に津波はグラディエーターを通過し、また大海原を進んだ。
「ごめんッピ。かえって足でまといになってしまったッピ」
ヌケをリュックから出すと、怖かったのか震えていた。
「ペンギン、ヌケ、もう大丈夫だ。さすがアレイの作った家は頑丈だな。」
津波は家の一階部分まで来ていたが、ビクともしなかった。
外に出ると無残な光景が広がっていた。
ココアが大切にしていた畑は流され、木々が覆っていた。
下はもっと酷かった。
山の下はえぐられ、そこにどこからか運ばれてきたゴミの山が溜まっている。
ボートのあった場所を目でおってみたが、影も形も無かった。
よく見ると山の岩肌にぶち当たったボートは、分裂し修復不可能な状態になっていた。
「今こそ!アレイボールです!ッピ」
気づくとペンギンが隣に来ていた。
ボートは失ってしまったものの、無傷で立っているのはアレイのおかげだ。
咄嗟の時にもアレイであるひまわりを信じることが出来た。
もしかしたら俺は今までの人間よりも、アレイを信じ愛しているのかも知れない。
と、すると!
俺は琴を愛し続けることが出来るだろう。
一緒に笑いあっていつまでも生活出来るだろう。
いや必ず琴と幸せになってみせる!
「ペンギン、ボートは呼べるか?」
「もちろんッピ~♪」
ペンギンはとても嬉しそうに答えた。
俺は小瓶を手に木々で覆われた階段を一気に駆け下りた。
「ボート!そして俺の愛する琴ーー!!
琴ーー!琴が俺には必要なんだぁーーー!」
俺はありったけの大声で大海原に叫び、中のアレイボールを投げ込んだ。
大きな光が現れ、ボートにはにこやかに笑っている琴が乗っていた。
思わず走り出し海にダイブすると、琴も海に飛び込んだ。
二人は海の中で抱きしめあった。
「琴!俺はお前を愛し続ける!必ず、幸せにする!」
「その言葉を待っていました……」
琴は涙を流した。
「琴、皆を呼ぼう!」
二人で沖に上がり琴の肩を優しく抱きしめた。
「ボーイ!ひまわり!また来てくれるかー!」
そして中ボールを投げ込んだ。
「艶姫!桜さん!ココア!頼む!もう一度会いたいんだーー!!」
今度は大ボールを投げ込み、小瓶の中は空っぽになった。
懐かしい五人は山の上に現れ、にこやかに手を振っていた。
琴と二人で足場に気をつけながら階段を登りきった。
ココアは畑に落胆していたようだが、すぐ気を取り直しヌケを抱きしめていた。
ペンギンの姿はどこにも無かった。
「なんか津波にやられてしまったけど、皆のおかげで俺は無事だ。ありがとう。コレを片付けるのを手伝ってくれないか?」
「もちろんだ」
ボーイがそう答えると皆一斉に応じる言葉を発してくれた。
「それと、琴は人間になってくれる。俺は一生愛し続け幸せにすると、皆の前で誓うよ」
そう言い終わると、皆から喜びの歓声が上がった。
「琴さん、家に入って。いつ痛みがくるか分からないよ」
ひまわりは優しく琴にそう言った。
「ここは任せろ!琴さんに付いていて」
ボーイはそういうと皆と作業にかかった。
琴は少し顔を歪めた。
急いで二人で家に入り、二階の寝室に連れて行った。
琴はそのままベッドに横たわった。
「痛むのか?大丈夫か?」
俺はそんな言葉をかける事しか出来なかった。
琴は時には仰け反り時にはうずくまり、声を押し殺しながら耐えているようだった。
何もしてあげられない自分が辛い。
激しい痛みは次の昼前まで続いた。
他のアレイ達が寝室にやって来た。
「琴さんから汗が出てるわ~♪もう大丈夫よん~」
艶姫の言う通り、琴の額に汗が滲んでいた。
そっとタオルで汗を拭うと、琴の顔が人間のように柔らかかった。
琴は痛みが消えたようで、優しい笑みを俺に向け
「サリー。幸せです」
そう呟いた。
手を握ると手も柔らかかった。
思わず琴を抱きしめた。
柔らかい、琴が柔らかい。
なぜか涙が溢れた。
「サリー、良かったですね」
ココアは涙声でそう言ってくれた。
皆は津波の被害をキレイに修復してくれ、別れの挨拶をし消えた。
もうアレイボールはない。
だから二度と会う事は出来ないが、絶対にこの先も忘れる事はないだろう。
人間とは持てなかった絆や信頼があるアレイ達に、心から感謝した。
琴と二人でグラディエーターを離れ街で生活する選択も出来たが、俺たちはこの島で住む事を決めた。
いつまでも琴を愛し、やがて産まれるかも知れない子どもと共に……。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました<(_ _)>




