最後の別れ
四人のアレイと知り合い、四人のアレイと別れた。
そしていつまでも一緒に過ごすはずだった、マイケルとキャメロンも失った。
今いる琴とココアもそのうち別れが来るのだろう。
グラディエーターで得たものは少なく、失くしたものの方が多い気がするのは、錯覚だろうか。
それから毎日、琴やココアと話し一緒に行動し笑いあった。
別れを惜しむように。
ある夜琴とベッドで寝ていると、珍しく人間のことを聞いてきた。
「食べるってどんな感じです?」
「排泄は痛いですか?」
「人間の幸せはどんなものです?」
俺はこと細かく丁寧に答え続けた。
「愛するってどんな感じです?」
「その人を想うと胸がキューンとなる。一秒でも長くいたいと想う。大切な存在で守ってあげたいと強く想う。その人が笑うと幸せになり、泣くと悲しくなる」
「素敵ですね」
琴は何かを考えるように、じっと天井を見ていた。
そして突然起き上がり窓から外を見た。
何かを思い悩んでいるかのように。
「どうしたの?」
「私も明日でお別れです」
琴は振り向かず、そう言った。
「そうか……」
「サリーは琴を愛していましたか?」
「好きだ」
「好きと愛するは違いますか?」
「違うね」
「愛にならない理由はアレイだからですか?」
「そうかも知れない。いつか別れが来るから、自分が悲しまないようにセーブしてるのかもな」
「もし琴が人間になれたら、愛してくれますか」
「なれるの?!」
「もしもです」
「あぁ、愛してしまうだろうな……」
今でも愛おしくてしょうがない。抱きしめて離さないと言いたかった。
そのまま琴は納得したのか、ベッドに入り静かになった。
この寝顔も今夜が最後。
次の日、別れの日だ。
ココアとヌケの無邪気さに救われた。
「ココアちゃん、お別れです。楽しかったです。ありがとう」
琴は突然そう告げた。
「お別れですか。わかりました。私もありがとうです」
「サリー、いつまでもお元気で」
「あぁ、琴もな。必ず幸せになれよ」
ハグを交わした。最後のハグだ。
琴は深々とお辞儀をした。
「私は人間になりたかった……」
そう言い残し、消えてしまった。
なぜか全てが終わってしまったような気がした。
切望していた無人島も山に作った家もバナナテントも、なぜか無意味に思えた。
琴の存在が無くても欲した物が、色褪せて見えた。
ココアは一言も話さず、ヌケと畑に行った。
気を使ってくれたのだろう。
ここに来た時と同じように、一人でボートに乗った。
常に琴は側にいた。
だから寂しいのだろうか。
それとも本当に好きな人を失ったから、寂しいのか。
アレイなんだ、彼女はアレイなんだ。
忘れよう。
そう思っても、ふと気づくと彼女を思い出していた。
優雅に泳ぐ彼女を。
夜空を見てにっこり微笑む彼女を。
マイケルとキャメロンの墓で、いつまでも泣く彼女を。
やはり俺は琴が好きだ。
アレイだからとか、もう考えまい。
素直に認めればいい。
家に戻るとココアがキッチンにいた。
「お腹空きましたか?」
「うん、いい匂いだ」
「今日はお好み焼きですよ。元気を出して下さいです!」
「ココア、ありがとう」
「明日はヌケのために釣りして下さいよ。出汁を取って匂いを付けるです」
「あぁ、分かった。なぁ、ココア?もうすぐお別れか?」
「まだ少し先ですよ」
「農業や家畜の世話や料理を教えてくれないか?」
「いいですけど……。それよりアレイボールがあるならまた呼べばいいですよ」
「いや、もういいんだ。別れが来るからな」
あんなにはしゃいで、アレイを呼んでいた自分が滑稽に思える。
もうこりごりだ。
それからココアと共に行動し、色々教えてもらった。
ココアは常に明るく元気いっぱいだった。
しかしそんなココアがある日、元気がなく俯いていた。
ヌケはそんなココアの側に寄り添ってじゃれていた。
「ココア、どうした?」
「うん……、サリー?」
「うん?」
「ずっと言おうかどうしようか迷っていたの」
「俺に?なに?」
「アレイはね、実は人間になれるの。琴さんに聞きませんでしたか?」
「ぇ……、聞いてない」
「アレイボールで呼ばれたアレイが、人間と愛し合うと人間になれるの」
「どうやって?」
「経験ないからわかんないけど、痛くて苦しいのが一昼夜続くみたい」
「そうか.……」
「でもね、それでも人間になりたいって想うのよ。琴さんもなりたかったって言ったじゃない!」
「うん、でも、もういないんだ」
「もいちど呼べばいいじゃない!愛してないの?」
「もいちど?」
「琴さん、って叫んでボールを投げると来てくれるよ!」
「そうなのか!知らなかった……」
「私は愛をまだ知らないよ。だけど二人が仲良くしてたのは知ってる。だから……」
そこまで言ってココアは俯いてしまった。
ココアなりに一生懸命悩んで考えてくれたのだろう。
ヌケを抱きココアの横に座った。
時が静かに流れた。
ココアとのお別れの日がやって来た。
ヌケと別れを惜しんでいるのだろう。
抱きしめ泣いていた。
「ココア、本当に色々ありがとう」
「お役に立てて良かったです」
「元気で幸せになってよ」
「うん、サリーも……、サリーも」
言葉を詰まらせ静かに泣いた。
ココアを抱きしめて「ありがとう」と、呟いた。
ココアは泣き顔のまま、笑顔を作り手をあげた。
「さよなら、サリー」
そして最後のアレイが消えてしまった……。




