グラディエーター
宝くじで大金を手に入れた俺は、小さい頃からの夢だった無人島を手に入れた。
船舶免許も取りモーターボートを買った。
必要な物だと思う物(定かではない)を買い揃えボートに積み込む。
その無人島はハワイとほぼ同じく、常夏の気候を満喫出来る。
これで寒い冬とおさらばだ。
俺は生まれも育ちも東北。
雪おろし、雪かきが大嫌いな俺にとって天国の何ものでもない。
それに人がいない事。当たり前だが無人島だ。
俺が所有するわけだから、他から誰かがやってくる事もない。
社畜はもううんざりだ。
しがらみ、まっぴらゴメンだ。
下戸の俺は付き合いの飲み会も耐えられん。
それら全てから解放されるのだ。
ショッピングを楽しむ人がいるが、理解に苦しむ。
食べ歩きなんかどこが楽しいのか。
生きれるだけの食べ物があればそれでいい。
そうだ、グルメとは無縁だった。
コンビニやスマホ、パソコンがないと嫌だと言う人が多い中、全く興味がないと言えばウソになるが、無くても不便は感じない。
あの携帯というものはろくな事がない。
「今どこ?」「今何してる?」挙句には「○○買ってきて」
もううんざりだ。
俺がどこで何してようが誰といようが大きなお世話だ。
25歳ともなると、それなりに恋人もいた事もある。
だが、たいていはめんどくさくなり俺から去った。
だからこそ人に干渉されない無人島が欲しかったのだ。
所有する無人島には名前が無かった。
“無名島”と呼ばれていた。
歩いて二時間ほどで一周出来る俺の島が、地図に載ることはないだろうが、せっかくだから名前を考えた。
パラダイスーーありきたりだ
愛島ーー他にありそうだ
いっそのこと自分の名前を付けるかとも考えたが、この際名前も捨ててしまいたい。
そこで思いついたのが大好きな映画だった。
《グラディエーター》
なんとかっこいい響きだ。
そのまま戦えそうじゃないか!
俺は闘わないが。人と争うことも嫌いだ。
だが待て……、この島を乗っ取ろうとする者がいたら?
俺は武器を片手に必死に戦うだろう。
それほど愛する島だった。
かつて人にせよ物にせよ、これ程まで愛したことはないだろう。
そんなものを手に入れた俺は、胸踊らせながら今から旅立つ。
付き添いは三毛猫二匹。
兄妹の捨て猫を譲って貰い、成猫まで育てたやつだ。
もちろん無人島に連れて行くためだった。
こいつらの名前は面倒だったが付けてやった。
鼻に茶色いぶちのあるのがオスのマイケル。
もちろんマイケル・ジャクソンからとった。
気品高い美人のメスはキャメロン。言わずもがな。
犬の方が役に立つかも知れないが、あのハイテンションにはついていけない。
まして餌になる肉がない。
調べた所、動物は存在しないらしい。
そう思うと猫はいい。
魚を釣れば喜んで食うだろう。
こうして俺と二匹の猫は、島初めての生き物として《グラディエーター》へ降り立った。