出会い 四月の海
高校の校舎は、海の見える場所にある。
私はその海の見える場所から海を眺めるのが好きだった。
この高台に立つ建物からは風に緩やかに海が見え、陽の光を反射し、キラキラと輝く波が見えた。
晴れた空の下、春の海は穏やかに笑っている。
海は不思議な気持になる。
繭はじっと、海を見つめ、ざわざわ、さらさらと打ち寄せる波を見ながら心安らぐ安息の時間を享受する。
そんな私に人は気にも止めない。地味な私のことなど誰も見てやしないのだ。
暖かく緩やかな天気とは裏腹に、なんの役に立つのかも分からない退屈な授業を聴きながら、繭はずっと窓の外の海を見ていた。
(あの海の、水平線の彼方にはどんな国が広がっているのだろう)
「…海は広いな大きいな」
「…月は登るし日は沈む」
海を見ながらそっと口ずさむ。
口ずさんだ歌に声が重なる。
驚いて、振り向けば、隣の席の男子生徒
えっと、名前はなんと言っただろうか
「あの、」
男性は、顔を上げると私の顔を見て、言った。
「綺麗な声してんじゃん、合唱部にでも入れば?」
思わずこう言ってしまった私は悪くないと思う。
「は??」
隣の席の彼、生田明人と私羽純繭はそんな出会いだった。
この時までは思わなかったのだ。
私と彼が、
―夫婦となる事なんて