突然の……
「やめたぁ!?」
「昨日、退学届を出したんだってさ。ご丁寧に退部届も置いてったよ」
呆れたように肩をすくめ、部長は手にしていた紙切れを机に滑らせる。部長のロッカーに突っ込まれていたというそのレポート用紙には「世界一周旅行に出発するため退部します。お土産送るからね」と書かれている。いかにも榊さんらしい退部届だ。
「まったくあいつは、最後までつかみどころのないやつだったな」
数少ない同期である部長は、どこか寂しげに笑って肩をすくめてみせた。
「お土産送るって……これ以上増やされても困るんですがね」
「まったくだ」
「でも榊さんのことだから、ある日突然ひょっこりと戻ってきそうですよね」
「何でもなかったような顔をしてな。やりそうなことだ」
やれやれと溜息を吐いて、机の上に投げ出されたアニメ雑誌に手を伸ばす部長。
「お、そうだ本嶋。ミスコンの衣装な、これなんかどうかと思うんだよ」
「部長まで何言ってるんですか!」
思わず声を張り上げたところでタイミングよくドアが開いたと思ったら、どっと溢れてくる賑やかな声。
「こんちわー!」
「今日部会だよねー」
「これ来てたよ部長。看板の依頼、一件追加だってさー」
「衣装のレンタル先、目星つけてきたよ!」
わらわらと入ってきた部員達。いつもはなかなか顔を出さない四年生まで、今日は勢揃いだ。
一気に賑やかになった部室に響く、部長の声。
「これで全員揃ったな。よーし、部会始めっぞー」
そうして、榊さんのいない、いつも通りの『漫研の日常』が始まる。