第2話 【友人・早瀬友助】
「2人とも、おはようさん!」
いつものように、鷹一と朱花が隣同士で他愛のない話をしていると、真後ろから勢いよく挨拶をされた。
突然のことに、朱花はびくりと肩を跳ね上げ、声もなく驚く。
鷹一はそんな朱花を見て、くすりと笑い、後ろから声をかけられるのは今日で二度目かと思いつつ、振り返り話しかける。
「おはよう、友助。でも朱花が驚いてるだろ?」
早瀬友助。
朱花と同様、大学で親友とも呼べる友人。
気さくな雰囲気で周囲を明るくしてくれるムードメーカー。
少し軽いような雰囲気だが、鷹一たち以外の友人も多く、何かと話題を持ってきて話を盛り上げてくれる。
「おはよう、早瀬くん。いきなりの大声に驚いちゃっただけだから大丈夫」
朱花はそうフォローするも、友助は申し訳なさそうに返答する。
「そういえば朱花ちゃんはでかい音苦手だったっけ・・・ごめん!」
さっきより少しだけ声を落とし、手を合わせて謝罪する。
「大丈夫だよ。元気な挨拶に悪いことなんてないんだし」
「まあ友助は元気だけがとりえのチャラ男だしな」
鷹一がフォローになっていない言葉でフォローする。
フォローしてくれた朱花に対して女神を見るような目で見ていた友助は鷹一の言葉でがくりと肩を落とす。
「鷹一・・・ねえ朱花ちゃんこいつひどくない?俺のことチャラ男だって!」
「早瀬くんは確かに軽いところあるよね」
クスクス笑いながら、朱花は友助に追い討ちをかける。
少しだけの茶目っ気をのぞかせて。
「朱花ちゃんまで・・・!俺に味方はいないのか!」
大仰に振舞い、絶望を謳う友助。
そんな親しき友人を見て、鷹一と朱花は目を合わせ、2人で笑いあう。
鷹一はひとしきり笑うとふと今朝のことを思い出し、講義のために横へ除けておいたかばんをたぐり寄せ、中からDVDのケースを取り出す。
「そうそう、友助。これ返すよ。なかなか面白かったから次の巻が出たらまた貸してよ」
そう言いつつ、鷹一はそのDVDケースを友助に差し出す。
「ん?・・・ああそれか。面白かっただろ?」
絶望に打ちひしがれるふりを大げさにしていた友助が鷹一の言葉に反応して、正気に戻る。
そして言いながら差し出されたDVDケースを受け取る。
それを眺めながら、朱花が無邪気に聞いてしまった。
「あー。それ今放送しているドラマだよね?見たことないけど、そんなに面白いの?」
「あ・・・」
そう、聞いてしまった。人はそれを地雷とも呼ぶ。
「よくぞ聞いてくれました!この作品はね、研修医くんが主人公なんだけど・・・」
友助は水を得た魚のように作品愛をまくし立てる。
鷹一はやっちゃったと思いつつ、静かに友助の話を聞くふりをしながら、やり終わったはずの講義の準備をし直す。
朱花はいったい何事かと目を白黒させながら、身の危険を感じたのか、少しだけ身を引いた。
友助のマシンガントークはチャイムが鳴るまで続いたのだった。
そんないつもの日常。いつもの雰囲気。
そして始業のチャイムが鳴り響く。
「・・・そして今物語は佳境に!・・・なんだもう時間か。これいつでも貸してあげるからいつでも言ってね、朱花ちゃん!それじゃ!」
丸々5分は話し続けた友助は清々しい笑顔のままに自分の席へと戻っていく。
「うん・・・それじゃ・・・」
朱花はなかなか終わらない友助の話をただただ叩き込まれ、茫然としながらもなんとか友助に返事をする。
そんな朱花の様子を横目で見ていた鷹一は、途中助け舟を出すこともなく、南無・・・とつぶやきながら手を合わせる。
そんな非道な鷹一には気づかず、席に向かう友助の後ろ姿を眼で追いながらつぶやくように話し始めた。
「・・・鷹一くん、早瀬くんっていつもああなの?」
「自分の好きなものに対してはいつもあんな感じだな」
「はー・・・早瀬くんとそこまでたくさん話したことはなかったけど、やっぱりかっこよくても欠点ってあるんだね」
どこか達観したように、朱花は1人うなずきながら不思議な納得をしていた。
鷹一はたしかにな、と朱花に同意するのであった。