第1話 【夢の後】
「・・・変な夢」
ゆっくりと目を覚ます。
不思議な夢を見た・・・そんな気がする。
誰しも夢から覚めると大半の内容を覚えていないということはよく起こるもので、さっきまで見ていた夢は不思議だったという感覚以外、何も覚えていない。
覚えてはいないが、歯車が上手くかち合わない、そんな違和感は胸に残る。
淡い水色で統一したベッドからのそりと起き上がる。
「ふう・・・顔洗おう」
ついでにトイレにも寄ってしまおう。
掛け布団をばさりと横にのけて、ベッドから這い出て、トイレに向かう。
ベッドから出てすぐだからか、少し肌寒い。ちょっと身震い。
トイレを済まし、眠気と違和感を飛ばすためにそのまま洗面所へ向かう。
洗面所に着いたら、蛇口をひねり、
バシャバシャ、バシャバシャ。
ただの水道水で顔を洗う。
冷たい水道水が眠気も違和感も流してくれる。
この瞬間が結構好きだったりする。1日が始まる感じと、何よりさっぱりするから。
一通り顔を洗ったらタオルで拭いて、おしまい。
「はー、さっぱりした。・・・歯みがき忘れてるじゃん」
歯みがきも終われば完全に眠気も吹き飛ぶ。
あとは着替えと、大学に行く準備だけ。
物干しに干したままぶら下がっている服を適当に選んで着ていく。
愛用のリュックサックに今日大学で使うものを入れていく。
「今日はこいつとこいつと、あとなんかあるか?・・・ああついでに友助から借りたDVD持って行くか」
友人から借りていたドラマのDVDもリュックサックにつめていく。
このドラマは友人の一人である友助のおすすめ通り面白かった。
このドラマは、体がドット化してしまう奇病が発生するようになった世界を舞台に、医者でゲーマーな主人公がゲームの力を使い、奇病の原因を倒し、患者を治していくというストーリーだった。
この手のドラマは普段自分から観ないけど、観てみると意外と面白かった。
他の医者やらヤブ医者やら、他の登場人物もキャラクターが立っていて好感だった。
また新しい巻が出たら友助から借りようかな。
「よし、これでいいか」
そうこうしているうちに荷物入れが終わる。
部屋の時計を確認するとちょうど出発する時刻を指していた。
~♪ ~♪
突然、枕元に置いてあるスマートフォンから音楽から流れ始める。
何かと思い、ディスプレイを見ると『起床』と表示されていた。
どうやら起きる時間と出発する時間をうっかり間違えていたようだ。
危うく遅刻するところだった。
「・・・結果的に間に合うんだし、いいか」
言い訳がましく独り言をつぶやきながら、リュックサックを背負い、家を出る。
大学まではここから徒歩20分。余裕もあるし歩いていこう。
歩くこと15分。
いつもの癖か、遅れてもいないのに早足で来てしまった。
目的地に早く着いてしまったとはいえ、特にやることもない。
どうしたものかと考えていると体が何かに反応した。
「あれ?鷹一くん?」
後ろから声をかけられた。
そのまま振り返るとよく見知った顔が立っていた。
いつの間にか何かに反応した感覚は頭から消えていた。
「ああ、朱花か、おはよう。早いんだね」
知念朱花。
この大学で知り合い、ともに学ぶ仲のいい友人の一人。
鷹一が友人として贔屓目に見ても可愛いと思うほどかわいらしい見た目をしていて、狙っている男子が多いらしいとは友人の早瀬友助の談。
そしておそらく朱花の後方に停まっていたバスから降りてきたのだろう。
他の生徒や見覚えのある教授ももちらほらとバスから降りてくる。
「私はいつもこれくらいだよ。鷹一くんこそどうしたの?いつもなら講義の少し前ぐらいに来てるのに」
今は講義開始まで30分ほどある。
普段なら開始の5分前ぐらいまでにしか来たためしがない。
自然と朱花と並び立ち、教室へと歩き出す。
「今朝は変な夢を見て目が冴えちゃってさ。起きてそのまま大学に来たんだよ」
「変な夢?どんな夢だったの?」
朱花は小首をかしげながら聞いてくる。
「それが全然覚えてないんだよ。今朝は夢を見たことははっきり覚えているのに内容を全く思い出せなくて。すごく変な感じがして目が覚めちゃったんだよ。朱花はそういうことない?」
「あー思い出せそうで思い出せないときみたいな感覚だよね。わかるわかる」
朱花はクスクスと笑いながら、のどのあたりを指さしながらここまで出てるのに!とジェスチャーする。
「そうそう。そんな感じ」
そんな他愛ない会話を続けられる朱花との関係は好ましく思っている。
そうこうしていると早くも講義室へと着いてしまった。
「そういえば」
朱花が思い出したように話を切り出した。
「今日の講義って外部の先生が来るって話だったね」
「え?」
全く記憶にないことを朱花は話している。
「あれ?覚えてないの?」
「んー・・・思い出せないわ」
「もう、連絡事項ぐらいちゃんと聞いてなよ」
朱花が呆れたように注意してくる。
「ああ。そうするよ」
その後また何気ない話をしながら、講義室のいつもの席へ向かった。
でも今朝と似たような違和感を感じた気がした。