プロローグ
周囲は不思議な空間で満たされていた。色の概念がないような、透過されたような世界。
そして浮遊感で身を包まれたように感じるフワフワとした感覚。
そんな世界をあえて表現するなら・・・夢の中。
実感がある分、夢ではないんだろうが、そんな場所に自分はいた。
手足の感覚はない。というよりも自分の体さえも存在しているのか理解しきれない。
しかし、確かにその場に存在していることは実感していた。
「お目覚めかな?」
どこからともなく声が聞こえてきた。
その声は神々しくもあり、何故だか聞き覚えのあるような不思議な声だった。
声が聞こえてくると同時に目の前には鳥をかたどった紋様が現れた。
その紋様は温かくも威厳を感じるものだった。
「気分はどうだい?」
紋様から聞こえてきた問いに答えられない。
話し方を忘れたような。そもそも話すための口が存在しないような。
「・・・? あぁそうだった、存在を確立してすぐだから反応できなかったね。すまない、失念していたよ」
その紋様は答えない自分に対して不思議に感じつつも、話せない事実を理解した。
そして、少しだけ申し訳なさそうに反応し、言葉を続ける。
「この場所だと会話はまだ厳しいよね。僕だってまだちゃんとした姿になれていないんだし」
紋様は一人納得したように話す。
会話は成り立たないとわかっているにも関わらず、紋様は切り出した。
「仕方ないから、一方的に話させてもらうけど、この世界は一種の夢のようなもの。実在して存在しない世界。そして僕は忠告があって接触させてもらったよ」
忠告。
自分の体でさえまだピンと来ていないのに忠告と言われても、やはりピンとは来ない。
お構いなしに紋様は話し続ける。
「忠告というのはただひとつ。何があっても自分の身を護ってくれ」
自分の身を護れという生きていく上で、わざわざ考えることなく至極当然のように行なう行為。
頼まれずとも、それこそ忠告されずとも。
「君の力が・・・ん?もう限界か。まだ話すべきことがあるというに」
今いる不思議な空間がぽろぽろと上のほうから崩れ始める。
「これも仕方なしか。・・・この空間も待たずして消滅する。続きはまた次回にするとしよう」
紋様は一瞬炎のように揺らめくと、だんだんと存在が遠くなっていくような気がする。
そして周囲の空間と同様に紋様もぽろぽろと崩れ始めた。
紋様は崩れつつも言葉をつむぐ。
「では選別に私の力を持つ君へ祝福と名を与えよう。君の名は・・・」
『井上鷹一』と。
そしてひとつの存在が生まれたとき、世界の核心が揺れ動く・・・。