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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ハーレムの真の主

作者: 焔勅

もともとハーレム肯定派フェミニストの女権第一的なハーレムを書く連載物の予定の設定が、そんなに話が膨らなかったのでざまぁと合わせてみました。



 私がそれに気が付いた時には、すでに遅かった。


 

 彼の親友だったはずの裏切り者と、私の婚約者を自称するナルシストは、少しずつ彼の精神を削っていっていた。



 彼は何人もの女性から愛情を寄せられていて、それを理解していた。しかし彼自身はその子たちのことを友人としての好意しかなかった。

 それが気にくわなかったのだろう。裏切者は彼女たちに彼について、あることないこと吹聴して回った。


 親友という立場もあり、その嘘を信じかけた子もいたが嘘を見破った子もいる。直接確認をとった子、更生させようと説得した子。愛は盲目とそれが事実でも付いていこうとした子もいて結局は彼から離れる子はいなかった。

 最初は単なる世間話や親友としての善意の忠告だと裏切者の話を聞いていた彼女たちも、そこに潜む悪意に気が付き始めたころ、裏切者は標的を本人に変えた。


 彼女たちは、確たる証拠もなく彼にとって親友だった男を裏切者として断罪することはできなかった。だからこそ、裏切者が彼に近づくことを阻止できなかった。

 


『いい加減、誰かに決めたらどうだ?』


『皆の好意に気が付いてるんだろ?』


『気が付かない振りして、皆にいい顔して。それを知ったら悲しむだろうな。』


『親友だからこそ、きつい言い方をするんだぞ!』


『最近、芸能人の浮気の報道って多いよな。なんで一人を愛することが出来ないんだろうな。』


『選ばれることもなく、ホントに彼女たちは幸せなのか?』


『どうせ振るなら早く振ったほうが新しい恋愛ができるのに、邪魔してるんだぞ。』


『もし、彼女たちがお前と出会わなければ、好きな人と付き合って幸せな高校生活が過ごせたんだろうな。』



 信用していた親友の口から出てくるのは自分を酷評する内容ばかり。ついには彼は裏切者の意見の全てを受け入れ、自分さえいなければ彼女たちは幸せになれたのだと、手紙を残し姿をくらました。






 そして現在。私は婚約者(自称)の口から、その話を聞いていた。



「こうして、君が目を付けていた彼は破滅したよ。

 クックック、しかも自殺しかけてね。ボクが保護してあげたよ。」



「……それで?」

 

 私は冷静に続きを促す。この男の言う保護というのは、拘束状態にあることを示している。つまり彼を人質に何か要求があるはずだ。


「ふん!冷静だね。

 自殺防止のため(・・)に、彼は拘束してある。ここまで言えばわかるかな?」



 苛立ちから鼻を鳴らすと、分かり切ったことをわざと口に出す。

 ……というより、自分から要求するのではなく、こちらから提案するのを待っているのだろう。


「……だから、何を要求したいんだろうね。キミは?」


「ちっ!

 分かっているんだろう!……ああ、そうかボクの失言を狙ってるんだな?」


 私が要求を尋ねるよう口に出すと、男は舌打ちを一つ。こちらの真意に気が付いたとニヤける。



「ボクから君に、条件を提示したら脅迫として訴えられると、そう考えてる。

 残念だけど、君も知ってるはずだよ。ボクには警察や政治家に知り合いが多くてね。

 君の家じゃ、こういう手はもう使えないだろうがな。」



 おそらくこの男が言いたいのは、彼の拘束を脅迫目的の監禁として、証拠をもって警察に行こうとも握りつぶすことが出来るということだろう。

 この男の家は、現在この国でトップクラスの企業であり、裏で他方に金をばら撒いているという噂があるが事実だということだろう。



「さてね?本気で分からないと言ったらどうするんだい?」


 実際、何も分かってはいない。

 この男は婚約者を自称する癖に、ことあるごとに私の家のことを歴史しか取り柄のない没落した名家だと罵り、蔑みの目で見ている。確かに我が家は金銭的には傾いてはいるが、それでも没落などと謗られる覚えはないので意にも介してはいない。

 だからこそ、この男が私。ひいては我が家に求める条件には心当たりがない。



「ふん!まだ逆転を夢見ているのか?いいさ、どうせ証拠に意味はないのだから望み通りにしてあげよう。

 ……つまりだ。歴史しか取り柄のない名家と歴史だけがないボクの家を結ぶ。ボクが求めるのは君との正式な結婚だよ。」


 ああ、ようやく得心がいった。なぜこの男は殊更に歴史を強調するのかと思えば、それこそが求めるものだったということか。

 


 この男のいう名家というのは日本で最も権力と信頼を得る家のこと。皇族を筆頭に大物政治家の一族や人間国宝を擁する一門、そして歴史のある商家。数百年も前から日本を支えている家のことを指す。

 名家は名家同士での取引しかせず、新興の企業や一代、二代程度の政治家では名家として認められない。この男が、男の家が本格的に日本の中枢に入りこむには名家の血を引き入れる必要がある。



「当然だが、書面を交わして終わりじゃないぞ。破棄や逃亡なんてのは意外と簡単にできてしまうからな。

 君がお気に入りの彼を証人として既成事実を作る。俗っぽく言えば彼の前で君を抱くということだ。」



 勝ち誇ったようにニヤケ面を晒す姿から察するに、私の身もまた、この男の求める内にあったのだろう。

 





「残念だが、交渉は決裂だ。」


「はあ?」


 私が男の提案を蹴ると、理解できていないように呆けたような声を放つ。

 

「君は何を言ってるんだ?

 彼が大切なのだろう?」


「……確かに、彼は私の計画の上で欠かせないピースではあるがね。

 彼を保護したことの礼ならするが、キミの要求はあまりにも非常識だ。」


「ふざけるなよ!聡明な君が気づいていないはずがないだろう?

 彼の保護というのはつまり、ボクの支配下にある人質だということだ。警察に通報してもボクはそれをもみ消すことが出来るし、没落寸前の君の家では阻止できない!

 君に拒否権なんて無いんだぞ!」



 肩で息をしながら怒りを露わにする姿には余裕がみられない。

 それは単純に、思い通りにならないことへの苛立ちか、私の余裕な姿に対する恐怖か。





「キミはいくつか思い違いをしている。

 

 まず第一にキミが圧力をかけようと、彼の件は既に誘拐事件として捜査が開始されている。彼に万が一があれば警察の威信にかけて犯人を逮捕すると息巻いているよ。この状況では圧力をかけても無駄。仮に上層部を説得できても現場の人間たちは反発するよ。

 まあ、彼が実際に姿を見せて、自殺未遂の経緯を語れば別の事件が浮上するが誘拐については解決するだろうがね。」



 やはり恋は盲目。

 

 私がこの男から事情を聴くまで、彼が自殺を決意した理由を知らなかったように他の女たちもそれを知らない。彼の置手紙の死を仄めかす表現に対する反応は様々だったが、親が警察の幹部である少女の解釈は誘拐だった。彼女は、あるコンプレックスから自殺を図ったことが有り、それを留めたのが彼だ。

 彼女にしてみれば、自分の自殺を止めた恩人がまさか、自分を置いていなくなるどころかし自殺なんてするはずがないと考えるに至り、親を説得。親もまた、同じ結論に至りすぐさま事件性アリとして捜査が開始されたのだった。



「次に、私の家のことだ。

 確かに我が家は数年前に企業や家宝といった全てを他家に譲り渡したことで一見、借金や乗っ取りによって没落したようにも見えたかもしれないが、あれは当主である父が宗教にハマり、宗教団体に搾取されそうになったため、ある程度の金銭以外を父の手の届かないところへ保護したに過ぎない。

 譲渡した家……母の生家からは、私が家を継いだ時にはそれらを返還すると、父には秘密で契約を交わしている。」



 ちなみに、会社については仕事内容を間近で教われるように、卒業後は秘書の仕事をしながら経営学を学ぶことになっている。


 「それに、他の名家も没落を許してはくれないよ。母の生家が私の家を潰そうとしていると勘違いした家からは、母の生家への説得や後ろ盾として婚姻を結ばないかと話は来ていた。

 もちろん、恥を忍んで事情を話して断ったがね。」



 信じられないようなものを見るような目で見てくるこの男には、本気で没落しているようにしか見えなかったのだろう。あるいは、どこの家、名家よりも早く、婚約の提案をしてきたこの男の家が、宗教家を使って父をそそのかしたのかもれない。

 事実として寄進が多く、金銭的には困窮していく私の家を見て、自分たちの計画がうまく機能していると考えていたのならば、信じられなくても仕方がない。

 


「馬鹿な……!」



「私の立場からは把握し切れていないが、非合法な手段に対しては名家に対する挑戦として受け取り、調査をしている家もあるらしいよ。」



 この男は自信過剰なところはあるが、決して馬鹿ではない。私の言葉を理解すると怒りで紅潮していた顔が蒼白になっていく。

 

 

「ま、待て。

 歴史こそ短いが我が家は海外とも取引が多い、日本を代表できる準名家だ。だからこそ、君の家と縁を結び名家に成り上がろうと考えてだね。

 ……潰すなんてことはできないはずだょ?」


 恐怖のあまりか、語尾で声が裏返ってしまっているが、確かに潰すことはないだろう。 

 運が良ければ、この男の後継者脱落あるいは傘下企業の買収で済むだろう。だが徹底抗戦ともなれば、不正の告発などの制裁による株価操作でこの男の家が経営する企業主体がどこかの家の傘下に墜ちる可能性もある。

 

 とはいえ、そんなことを教える義理はない。私は唯々、無言でこの部屋を去るのみ。


 助けてくれと喚いているが、私の家は父が狂っただけ、狂わされた可能性があるだけで当家に対しては何も行っていない。そして他の家が何をしようと止める理由も権力(チカラ)もない。


「それじゃあ、私はこれで失礼するよ。

 ああ、彼の保護については貴家の慈善活動だったとして、このまま引き取らせてもらうよ。その方が変な要求で騒ぐよりも評判がいいだろうからね。」



 もう、返答すらしない。弱り切った男は膝から崩れ落ちて呆然自失といったところか。






「そういえば、あと一つキミの勘違いがあった。


 私の彼への好意はあくまでも、友人としての物。

 私は同性愛者でね。むしろ彼に集まる女性たちの方に好意があったのさ。

 ……まさか、彼の本命が私だったとは思わなかったがね。」



 実は彼にとどめを刺したのは私だった。友人だからこそ本当の気持ちを伝えて交際を断ったが、裏切者で傷ついた心を破壊するには大きすぎた爆弾だったらしい。












「迎えに来たよ。」



「会いたくなかったかい?でも、私には貴方が必要なのだよ。」



「ふふ、確かに振っておいていう言葉ではないのかもしれないね。」



「……彼女たちは貴方を必要としている。もはや依存の状態だよ。」


「すまない。言葉を選ぶべきだったか、これでは奴と変わらないか……。」




「まだ、奴を信じている。友人だからきつく言ってほしい、か……。

 なら、こんな風に逃げ出さないで欲しいかったよ。」


 「は?まさか本当に強要されて書いたとは、彼女の考えが正解だったのか。」



「キミは彼女たちに責任を持つべきだと思うよ。

 法律?倫理?

 まあ、重婚は犯罪だし不倫も大罪。社会的には問題の行為だが、法律的には本人たちの意思次第だよ。本妻と恋人と、合意であれば違法ではない。

 彼女たちは、とても恋敵とは思えないほどに仲が良い。この話をしても、それでずっと一緒に居られるなら、だってさ。妬いちゃうね。」



「私?そんなに執着してもらえると嬉しいよ。キミが女の子同士で睦み合うのを許可してくれるなら理想的だね。

 ふふ、茶化してないし皮肉でもないさ。そうだね。家を継ぐものとして、血を遺すものとしては、他の誰よりも友人のキミが好ましいよ。」







「だってキミは男性では一番……。」





「大好きだからね。」

だいぶ、男にとって都合の良い展開ですが、主人公はこれからの人生かなり苦労すると思います。


裏切者に関しては、自殺教唆として断罪予定でしたが、急に本人が実は気にしていなかったという設定にしたことと、ヒロインがトドメだったこと、そもそも自殺自体が自称・婚約者の偽装だったということで、お咎めなし。

一部警察関係者や名家からは保護観察処分相当の監視を受けますが、本文にはいれませんせした。



お目汚し、失礼しました。

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