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まさか、お前は!?

「危ないっ」

「キャー、何よっ!? なんなのよっ!?」


 わけもわからず飛び掛かって来たゲイリーに押し倒され、リナベルは目を引ん剥いて悲鳴を上げた。

 今までの話の流れとは全く無関係に、突然野獣に変貌するとは、これだから男って奴は信用ならないのだ。


 必死に暴れていると、ゲイリーはそれ以上に必死な顔で言い訳をした。


「ち、違うっ、違いますっ、誤解だって―――っ」

「はぁーっ!? 何が誤解よっ、このケダモノーっ!」

「うわぁっ、叩かないでっ、頭はやめてーっ」


 目を吊り上げたリナベルに命の危険を感じたのか、ゲイリーは両手で頭を庇いつつ、天井から石が落ちてきたんだってば、と早口で言った。


「はぁーっ!?」


 言われて周囲に目を向けると、確かに小さな石が二、三個落ちている。だがそれ以上何も起こりそうにないと判断して、リナベルはゲイリーに噛み付いた。


「ちょっともう離れてよっ。乙女を押し倒していつまでも上に乗っかってていいと思ってるのっ。その石ころも本当に天井から落ちてきたのか疑わしいわねっ」

「そそそ、そんなっ」


 慌てて跳ね起きたゲイリーに、リナベルは凄みをきかせる。


「全く『世界の美女百選~魅惑の熟女編~』を愉しみすぎて、煩悩が芽生えちゃったんじゃないのっ? 本当に男ってしょうもない生き物なんだからっ。ベッドの下に隠している『競争相手に差をつけろ! 男に磨きをかける百の方法』とかいうインチキ本で研究してるくらいですんだら、まだ可愛げがあったのに―――」

「……え?」

「女の子を押し倒して実力行使に及ぼうなんて、見損なったわよっ。全くもうっ。だいたい―――」

「リナベル……?」

「はぁっ? 何よ?」

「リナベルなのか……っ!?」


 唖然としたように凝視されて、リナベルも固まった。


「リナ……ベル、なんだ、な……?」

「……っ」

「そんなことを、その、隠している本のことまで知っているのはリナベルだけだ。隠し場所はシオンにすら秘密で……」


 違うと言い逃れるのはもはや無理だった。リナベルは何度も口を開閉して何か言おうとしたが、上手い言葉が見つからなかった。


 沈黙が落ちる。


 その重さに押し潰されそうになった頃になってようやく動きを取り戻したゲイリーは、血の気の引いた顔を引き攣らせて、これ見よがしにリナベルから距離を置いた。


「……すっかり騙されていたよ。お前だと気付かない僕を見て、シオンと二人で笑っていたのか。さぞおかしかっただろうな。全く、自分で自分が情けないよ。ちょっと変身したらころっと騙されて―――本人を目の前にしながら、うちの家政婦の身を案じて居ても立ってもいられない、バカ丸出しの姿を晒していたんだ。はっ、お前がいつも言ってる通りだ。甘やかされたどうしようもないボンクラ坊ちゃんだな、僕は」

「あ、あの……」

「バカにされるのも当然だよ。裏で嘲笑われてるとも知らず、お前を守ろうと必死になっていたんだからな」

「ま、待って。違うのっ。いや、違わないけど、あんたをバカにして笑ってたとかいうのは誤解よっ」

「はっ、今さら何を―――」

「本当だってばっ。こんな格好をしたのも色々と事情があって……誓って言うけど、あんたが心配してこんなとこまで来てくれたのは、本当に感謝してるのよっ?」


 リナベルは必死に説明した。

 いつも角突き合わせている間柄とはいえ、自信過剰で偉そうなゲイリーが、初めて見せた自嘲の響きに本気で焦っていた。実際、面倒臭い相手であるがそう悪いやつではないのだ。無意味に傷付けたくはない。


「だいたい、いつも自信たっぷりなくせに、なんで今回に限ってはそんなに自虐的なのよ? 私だってこんなとこに来るにあたっては、恐いっていうか、かなりビクビクしてたけど、あんたが来てくれて心強かったし(あくまで多少は)……私を心配してくれるのを見て改めて見直したし(全く役には立たないけど)……」

「……」

「本当だってば。ほら、私っていつも口が悪くて誤解されやすいけど(でも本当のことしか言ってないけど)実は気が強いようで弱いというか……」

「……まぁ、それはわからないでもないが」

「は? ……いや、そ、そうよ。そうなのよね、私って実はか弱い性格なのよね」


 リナベルは、少し落ち着いたのか言葉を返してきたゲイリーを窺うように見た。

 機嫌が直ってきたらしく、顔色も戻っている。それでも仏頂面のゲイリーに気を遣って、リナベルは言葉を重ねた。


「つ、つまりなんというか、流石ゲイリー坊ちゃんはいいとこあるなぁっていうか、ね? あのぅ、ほら、シオンは夢中になると一直線で、そんなに頼りにならないところもあるし―――」


 二人より三人の方が安心だし、と続けようとしていたリナベルは、まぁ確かに、と割って入られて口を開いたまま固まった。


「お前の言う通り、シオンなんかと比べると僕は格段に頼りになるだろうな。そこに気付けた点は認めてやるよ。ただ、そんな当たり前のことに思い至るまで、時間がかかり過ぎだがな。まぁ、気付いただけ偉いと言うべきか。あくまでも多少は、だぞ?」

「あ、あはは……」

「お前の気持ちは受け取った。ああ、それと今後はゲイリーと呼んでいいからな」

「え? いや、それは―――」

「恐れ多いというのはわかるが、お前がそこまで僕を慕っていると知った以上、そのくらい許してやる」


 はぁっっ!? と言ったらせっかく持ち直した機嫌が急降下すること間違いない。

 リナベルが呆気に取られている間に、ゲイリーの勝手な話はどんどん進んでいった。


「しかし、お前も本当に素直じゃないな。そんなに僕を頼りにしていたなら、もっと早くに言えばよかったのに」

「え? あの―――」

「まっ、言えないか。あれだけ僕に対して生意気な態度をしてきたんだからなっ」

「あのね、ゲイリー坊ちゃん?」

「おいおい、ゲイリーと呼んでいいと言っただろう。遠慮はいらないぞ?」

「え、いえ、遠慮というかね―――」

「考えてみればシオンの奴は呼び捨てにして、一番近い立場の僕に対しては他人行儀というのもおかしな話だろう。まぁ、近いとは言ってもあくまで主従関係に過ぎないがな。それでも僕は寛大な主人だから、使用人であっても僕をそれ程慕っている相手を邪険にしようとは思わない。あ、だが外では今まで通りにするんだぞ? 調子に乗らせるわけにもいかないからなっ」

「はぁ~っ?」


 さすがに黙っていられなくなって聞き返したが、ゲイリーは満足げに頷いた。


「だいたいあんた呼ばわりまでしておいて、今さら距離を取るのも難しいだろう。本来、立場的に僕をあんた呼ばわりなんてありえない話だけどな。少しでも近しい関係をアピールしたいという気持ちが空回りして、そういう生意気な態度になったと思えば、まぁ、僕もむげには出来ないからな。そこは許してやるから安心していいぞ?」


 話の進む方向について行けない。

 何故そんな展開になるのか、リナベルがあわあわしている間にわけのわからないことになっていた。


 そもそも、多少は機嫌を取るようなことを言ったとはいえ、それがどう転がってゲイリーを慕っているという飛躍した話になるのだ。それを得意げに頬を紅潮させて言うゲイリーの気も知れない。


 リナベルはげんなりしながら話を逸らした。


「まぁ、そういうくだらない話はともかく」

「くだらないとはなんだっ!?」

「だーっ! もういいからっ! それよりもわたしが言いたいのは、こんな不気味な場所じゃ全員で協力しないと危険だってことっ。だからシオンと仲違いしないでって言ってるの。あの人だってゲイリー……のこと思ってるんだから。ね?」


 まだ幾分不満げなゲイリーを力技で押し切って、リナベルは周囲を視線で示した。


「それにしてもこんなとこにこんなものがあるなんて、想像もしなかったわね」

「……まぁ確かに。というか、そういえばお前達はここに何しに来たんだ? さっきの部屋にも古ぼけた物しかなかったし、天井裏を伝ってこっそり入るのも、考えてみればわけがわからないぞ。立ち入り禁止区域ってことだよな? そんなところに忍び込んで何を探しているんだ?」


 今更そんな初歩的な疑問に立ち返ったゲイリーは、眉間に皺を寄せる。

 リナベルはここまできたら誤魔化すのも限界だと観念して、説明することにした。なるべく簡潔に、手短にだ。




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