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「変わる未来の赤の竜」  作者: 枯田
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1話「竜と騎士と白き竜」

竜の大襲撃から半年後。

その場に、五人の男が集まっていた。

モニターに映った少年の顔を見て、白衣を着たどことなく下町のやんちゃ坊主がそのまま大きくなったような男、すなわち蛮場丈太郎はため息をついた。

赤毛に切れ長の釣り目。

パッと見は不良少年といった雰囲気の少年に、とても見覚えがあったからだ。

「バン。君の弟分だそうだが」

「あぁ。日野諒兵っつってな。同じ孤児院の捻くれ小僧だ。わりぃ奴じゃぁねぇんだが……」

まさに英国紳士といった風情の男性の言葉に、そう答える。

彼は仲間内からは『バン』と呼ばれていた。苗字からつけられた通称だ。

わりと国際色豊かな仲間たちなので、この通称で通していた。

対して、声をかけてきたのは見た目どおりのイギリス人で、その名をアーサー。

『アーサー・ウェルシュ・バンブリッジ』

なお、ミドルネームは後から着けられたものである。

同じようなミドルネームを丈太郎も持っているが、めったに名乗ることはない。

それはともかく。

「おいおい、身内に丸薬くれちまったのか?」

「まだガキだ。やるわけねぇ」

「ならば何故、この少年は竜の力を手にしたのです?」

体格も良く、性格も豪快そうな中年親父と、体格はいいもののとても温厚そうな青年が交互に尋ねかけてくるので、丈太郎は再びため息をつく。

だが、黙っていても仕方がないと、口を開いた。

「原液を飲んじまいやがった、このど阿呆」

「ほほう」と、ひげを生やした老人が興味深そうな声をだす。

もっとも、他の青年たちはとてもそんな雰囲気ではないが。

ちなみに豪快そうな青年の名はロシア人で『ローベルト・クレンコフ』

温厚そうな青年はアメリカ人で『アラステア・ラナマン』

そして老人の名は中国、正確には台湾人で『王九垓わん じぅがい』という。

この五人が、丈太郎と志を同じくする仲間だといえた。

「こいつぁ孤児院のガキと一緒にはぐれもんに遭遇したんだよ」

「どうやって血を流させたのじゃ?」

「火事場のバカ力で、竜の下顎を引き千切ったらしい」

そう答えると、今度は呆れたような空気がその場に満ちる。

とはいえ、死にたくない思いで必死に戦った結果なのだろう。そう考えると、この場にいる者に、諒兵を責める資格はない。

「今はどうしているのです?」と、アラステアが尋ねる。

「とりあえず孤児院にいるが、右手が戻らねぇとよ」

モニターに、今度は鮮血の如く赤い竜の腕を抱える諒兵の姿が映る。

だが、その色が意味することを、その場にいた全員が理解していた。

アーサーが冷静だが射抜くような眼差しで諒兵の右腕を見つめる。

「バン、君の弟分は……」

「言うな」

「だが、間違いなく『赤の竜』だろう」

その場に緊張が走る。


『赤の竜』


その言葉の意味を誰もが理解しているだけに、次の言葉が誰からも出てこない。

しばらくの間、沈黙が続いていたが、九垓が先ほどと変わらぬ様子で口を開いた。

「憤怒の化身とはのう」

「怒りっぽいガキだかんな……」

「まさか、日本から出てくるとは思わなかったぜ」

「しかも、まだ少年。引き込まれる可能性のほうが高いでしょう」

憤怒の化身。

憤怒とは人の原罪とも呼ばれる七つの大罪の一つを示す。

それに相当する魔王も伝承に示されている。

すなわち、憤怒の化身とは魔王の一人であるサタンそのものたる竜。

悪魔になりうる力を持つ者だということだ。

そして諒兵はまだ年若い。憤怒の力に取り込まれてしまう可能性は十分にあった。

もともと竜の力も、力に飲まれてバケモノになる可能性を秘めている。

その中でも悪魔の力を持つとなれば、その可能性のほうがはるかに高い。

誰もが、そのことを理解していた。

それは丈太郎とて変わらない。

「バン、君の身内とはいえ放り置けんぞ」

アーサーはあくまで冷静ではあったが、その身のうちに正義の炎を宿していることが丈太郎には見て取れた。

もともと生真面目な性分の男だ。

悪魔の化身が現れたと聞いて、ただ黙っているつもりはないのだろうと丈太郎は思う。

だが、竜の中でもきわめて強力な悪魔の力を持ってしまったのは自分の弟分。

責任を取るのは自分であるべきだ。竜の血を発見し、竜の力を得る丸薬を作ってしまった者としても。

「しばらく俺が面倒見る」

「それでよいのかの?」

誰もそんな答えを期待しているわけではないということなど最初からわかっている。

ゆえに。


「あいつが引き込まれたんなら、俺が始末をつける」


その目に氷のような冷たい光を宿し、丈太郎はそう答える。ギシリと歯を噛み締めながら。




そんなことがあってから半年が過ぎる。

イギリス、ドーバー。

海峡の名でも知られるそこは、欧州防衛の要となっていた。

イギリスに存在する龍機兵の軍隊は、そこからヨーロッパ各地へと飛ぶ。

イギリスの龍機兵は多くが高い飛行能力を有しており、世界で最も速い軍隊とも呼ばれる。

以前、日本を襲った野良のワイバーン。

ここでは龍機兵となった者の多くが、ワイバーンの能力を有していた。

そして今。

『シーサーペントの類か』

赤い色をした四足のドラゴンが、眼下の海面を行く細長い無数の影を見てそう呟いた。

その影は、グレートブリテン島を目指し凄まじい勢いで侵攻してくる。

『だが、所詮は獣。知性を感じんな』

さらにそう呟くと、赤い色をしたドラゴンは海面スレスレまで降下し、そして。


グゥオォォオォォオォォオオォオオォォォオォンッ!


目が眩みそうなほど美しい、まるで宝石のルビーの光のような光線を吐く。

それだけで、多数の細長い影は爆散しながら海上に飛びだした。

『総員ッ、殲滅せよッ!』

赤い色の竜がそう叫ぶと、無数の空を飛ぶ竜が、雄叫びをあげて細長い影、シーサーペントに襲いかかる。

ある者は両脚でつかみ上げて海面に叩きつけ、ある者はブレスを連続で吐いていくつもの水柱をあげる。

そうしてしばらくの後。

海面を高速移動していたシーサーペントは、逃げるように深海へと消えていった。

『バンブリッジ卿』

『うむ。我らドラゴン・ナイツの勝利だ』

一体の竜、否、龍機兵の言葉にそう答えた赤い竜は、静かに、だがしっかりと拳を掲げる。

彼こそが、イギリスの龍機兵の軍隊『ドラゴン・ナイツ』の総責任者であり、同時に戦闘部隊の総隊長でもある龍機兵、『アーサー・ウェルシュ・バンブリッジ』であった。



同胞と共に海岸まで戻ってきたアーサーは竜化を解く。

赤い竜の姿とは裏腹に、碧眼を持ち、金髪をオールバックにした生真面目そうな青年である。

そこに話しかけたのは、少々くすんだ色の金髪と同様に碧眼を持つ同年代の青年だった。

「バンブリッジ卿、お疲れ様です」

「あの程度の敵では、成竜体になる必要すらなかった。私はまだまだ未熟だ」

「ですが、海岸線で戦うよりは良いのではありませんか?他国ではわざと上陸させてから叩く者もいるとか。被害も大きいでしょうに」

どの国かは明言しないが、それに近いのが日本の龍機兵団だろう。

海の上で叩くのが難しいため、海岸線ギリギリを前線としているため、どうしても漏れてしまうものが多い。

それが被害を出している以上、確かに良い方法とはいえない。

だが。

「ドラゴン・ナイツは飛行能力の高い者が多いからこそ言えることだ。それぞれの能力を生かすことが肝要だろう?」

アーサーの言葉は、イギリスの人間だからこそ、飛行能力に長けた龍機兵であるということを理解しているからでたものだ。

だが、他国には格闘能力、ブレス、超常能力と別の能力に長けた龍機兵が多いということができる。

それを生かすことは間違いではないのだ。

「申し訳ありません。浅薄でした」

「構わん。己に自信を持てば、竜の本能などに負けん。卿の言葉は自信の表れだ。誇るべきことだ」

「ありがとうございます」

そういって青年は頭を下げる。

この点から見てもわかるとおり、アーサーという青年は優れたリーダーシップと、部下に慕われるカリスマを持っていた。

それは彼が『卿』と呼ばれることからもわかるとおり、『サー』の称号を持つ貴族だからだ。

まさに英国紳士なのである。

そんなアーサーはドラゴン・ナイツの別の者、場にそぐわない初老の男に声をかけた。

「バトラー、『ライラ』は今どうしているか、知っているか?」

「ふむ。変わらず訓練をさせておりますよ。さすがに前線には出せませぬ」

「そうか」と、アーサーがため息まじりに答えると、バトラーと呼ばれた初老の男は深々と頭を下げる

ちなみに『バトラー』とは通称で執事を意味する。

正しくは『バーナード・アーキン』といい、古くからバンブリッジ家に使える執事だった。

龍機兵となったアーサーの助けとなるため、自らの意志で龍機兵となった忠義者である。

「某めがあのような進言をしなければ良かったのですが。申し訳ありませぬ。ご主人様」

「良い。私もまさかあのような結果を出すとは思わなんだ。一度言ったことを曲げるわけにもいかんしな……」

そういってアーサーはため息をつく。

どうやら『ライラ』という人物は、彼にとって悩みの種のようだ。

「バンにどう言い訳したものか。規範となるべき私が禁を破ってしまうとは」

「心中、お察しします」

『ライラ』なる人物に手を焼いているのはバーナードも同じらしく、アーサー同様にため息をついていた。



ドーバーの海岸線から十キロほど内地に移動した場所にあるドラゴン・ナイツの基地とも言うべき場所がある。


その名を『ウォールズ・オブ・ユナイテッド・キングダム』


『連合王国の城壁』を意味する言葉で、今の時代ではまさにイギリスどころか欧州防衛の要と言うべき場所だ。

その訓練場で。

教師然とした龍機兵が両腕のみを竜化させ、目の前の金糸の長い髪と青い目を持つ少女に襲いかかる。

だが、少女は慌てることなく、右手に持つ金属製の白いピストルから弾丸を放った。

相手の龍機兵はその弾丸を避ける。

本来、金属であるなら弾丸だろうと吸収できるのが竜だ。

ゆえに、竜が弾丸を避けることはまずないし、それは龍機兵も変わらない。

だが、その龍機兵は避けた。

その理由は、白いピストルを持つ少女の手にある。

白い金属の竜の腕で、白いピストルを持っていたのだ。

さらに、左腕もまた竜の腕と化しており、その手には白い金属でできた細身の剣、レイピアが握られていた。

弾丸を避けられた少女は、すぐに両脚を竜化させ、相手の龍機兵に迫り、刺突を繰りだした。

だが、それも避けられる。

少女の動きは悪くない。

ただ、どこか振り回されているような印象があった。

その後、数回の攻撃を繰り返した後、相手の龍機兵から「終了」という合図がかかる。

「まだだっ!」

「これ以上は無理です、ミス・バンブリッジ。そろそろお腹が空いてきているでしょう?」

「まだいけるッ!」

「引き際、撤退の機を間違えないのも戦術。そんなことも学んでいないのですか?」

「くっ……」

さすがにそういわれては仕方ないと、少女は両手の武器を消し、さらには両腕両脚の竜化を解いた。

「厳しい言い方をしましたが、撤退のタイミングを間違えると死に至ります。敵を侮るなかれ、です」

「わかっている」

「ですが、やはりミス・バンブリッジの武器は他の龍機兵とは一線を画する。あのピストルと同じものを持つ者はそうはいないでしょう」

龍機兵が武器を持つことは以前語ったが、それはたいていが爪や牙が変形した刀剣類が多い。

対して、ミス・バンブリッジと呼ばれた少女が持っていたのは片方はレイピアだが、もう片方はピストルだ。

構造からしっかりとイメージできなければ作れない武器を作り出したことは、間違いなく賞賛に値する。

「そ、そうか。感謝する」

褒められたことが嬉しかったのか、少女は少し頬を緩めた。

だが。

「混じりけのない白い色の美しさいい、他に類を見ないでしょう」

その一言で少女の相貌が怒りに染まった。

即座に右腕を竜化させ、訓練相手の額に白いピストルを突きつける。


「それを言うなッ、私は『白』は嫌いだッ!」


そんな少女に対し、訓練相手は頭を下げ、謝罪する。

「すみません、ミス『ライラ・バンブリッジ』」

「訓練は終わりなのだろう。私は自室に戻る」

そういって、ライラ・バンブリッジと呼ばれた少女ライラは、訓練場を去っていく。

「失言でしたね。『グウィバー』を表す言葉は……」

訓練相手はそういってため息をついた。



それから数日が過ぎた。

アーサーの元に一つの連絡が届く。

「五竜会談?随分と急な話だが……」

この時代、世界各地に五つの龍機兵の軍隊がある。

一つはここイギリス。

次に日本。

さらにアメリカ、中国、ロシアの三国にそれぞれ存在する。

そのトップの龍機兵が一年前の大襲撃で竜に対抗した五人の龍機兵であり、アーサーはそのうちの一人だ。

会談は通信で行われるが、この五人が顔を合わせること事態が滅多にない。

そうなると、かなり大きな問題が発生したか、何か大きな希望が見えたか。

いずれにしても会談の内容で話されるのは、どの国にとっても重要事項となる。

報告に着たバーナードもそのことは理解しており、すぐに知り得た情報を開示した。

「日本で『抱く者』の龍玉が破壊されたそうです」

「ほう。破壊したか。ならば復活するとしても相当先になるな」

これは朗報だろうとアーサーは思う。

ただ、龍玉が簡単に破壊できるものでないことは龍機兵である身として理解している。

そうなれば、考えられることは一つしかない。

「完全にではなかろうが御したか。バンは約束を守ったようだな」

「よもや『赤の竜』を御すとは奇跡の成せる業ですな」

人も竜も滅ぼす魔王の化身。

だが、上手く使えば、竜を一時とはいえ完全に消滅させられる最強の兵器となる。

半年前、弟分が赤の竜となってしまったことを報告し、最悪の場合には殺すとまで明言した男は、良い結果を出したということだ。

「……ふむ……」

「如何なさいましたか?」

「いや、いずれは報告しなければならんと考えていたが、これはますますもってライラのことを報告するのが気が重い」

そういってアーサーは項垂れる。

かつて、『赤の竜』を危険視した身としては、丈太郎が出した良い結果に喜びつつも、頭が痛くなってしまう。

だが、そこでバーナードはクスリと笑う。

「何がおかしいのだ?」

「いえ、ご心配には及びませぬ。此度の会談、ご主人様にとってはすべてが朗報と言えましょうぞ」

老執事の言葉に疑問を感じるアーサー。

だが、五竜会談を無視するわけにもいかないので、すぐに仕度を始めるのだった。






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