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最初で最期の  作者: 里崎
本編
3/12

§2.Needs Strength, or Fame? // ぴくりとも動かなくなった軟弱な『名匠』を見下ろし、

あくる日。


銃身でなぎ払われた細い身体が、あっけなく吹き飛ぶ。


物音を聞きつけ奥の部屋から飛び出してきた少女の前に、戸棚の角に打ち付け頭から鮮血を流す家主の姿。


「レオる……」


言いかけた少女の言葉を遮るように、ごん、と部屋の中央で鈍い物音。今しがた鈍器と化した銃の柄が、地面に当たる音。


「驚いた。聞いた以上に貧弱だな」


部屋の中央に立つ加害者の男は、つまらなそうに家主と少女とを一瞥してから、軟弱な『名匠』につかつかと歩み寄った。軽く小突いたはずがぴくりとも動かなくなった青年を見下ろし、唾を吐きかける。


「じゃあ、そういうことで。一週間後、楽しみにしてるぜ」


銃を手に、軽やかな足取りで工房を出て行く男。


入れ替わるように、少女が青年のもとに近寄った。部屋の隅にうずくまっていた金髪の青年は、喉を押さえて咽せつつ身を起こす。

その顔は小さく笑っていた。


解けかけの腕の包帯を外し、自身の頭部の血と、来客の唾とをまとめてぬぐう。


少女が青年の前にしゃがみこむ。


「さっきの、北の首領(ドミトリ)の息子だよね。帰ってきたんだ」


(ラフィリア)に提供した武器弾薬がずいぶんと(こた)えたようだな。今後、(ユリア)以外に兵器提供したら俺は殺されるらしい」


「どうするの」


「訊くまでもないだろ。どっかの傘下に入るくらいなら、最初から中央(ここ)に住んでない」


「いんや、だいぶびびってたみたいだからさぁ」


「生理現象だから、しゃーない」


立ち上がろうと身体を動かした青年が、痛てて、と呟いて頭を押さえる。


介助するべく手を伸ばす少女が、ぽつりと呟いた。


「……レオるん、ボクちょっと思うところがあるんだけど」


「なに」


少女が何か言いたげな視線で、青年をじっと見る。

青年は表情を変えず、あごで急かす。


少女は諦めたように目線を足元に移し、不満げな表情を浮かべる。


「いつまでそうやって――社会的弱者のフリをするのかなぁって。レオるんがマジになったら、この“大平原(エデン)”に倒せないヒトなんて居ないのに、さ」


青年はしばらく黙ってから、同じように足元を見て。


「フリじゃない。義足やら車椅子やら使って歩こうと走ろうと、社会的弱者であることには変わりないだろ。道具がなきゃ生きれない。結局は弱者だ」


「吹っ飛ばされたら道具も生身も同じでしょ、ハンデじゃないでしょ。あのね、人間はねぇ、人間だから道具が使えるんだよー」


挿絵(By みてみん)


「サルも道具を使う」


「んー、あー、そうなんだけどさぁ」


「ああ痛ぇ。ユスク、救急箱もってきて」


「はいはい」


いつもどおりのはぐらかしに少女はため息をついて、青年に背を向け棚に向かう。フードから覗く灰色の髪が、駆けていく弾みで可愛らしく揺れる。

2022/2/28 加筆修正

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