§2.Needs Strength, or Fame? // ぴくりとも動かなくなった軟弱な『名匠』を見下ろし、
あくる日。
銃身でなぎ払われた細い身体が、あっけなく吹き飛ぶ。
物音を聞きつけ奥の部屋から飛び出してきた少女の前に、戸棚の角に打ち付け頭から鮮血を流す家主の姿。
「レオる……」
言いかけた少女の言葉を遮るように、ごん、と部屋の中央で鈍い物音。今しがた鈍器と化した銃の柄が、地面に当たる音。
「驚いた。聞いた以上に貧弱だな」
部屋の中央に立つ加害者の男は、つまらなそうに家主と少女とを一瞥してから、軟弱な『名匠』につかつかと歩み寄った。軽く小突いたはずがぴくりとも動かなくなった青年を見下ろし、唾を吐きかける。
「じゃあ、そういうことで。一週間後、楽しみにしてるぜ」
銃を手に、軽やかな足取りで工房を出て行く男。
入れ替わるように、少女が青年のもとに近寄った。部屋の隅にうずくまっていた金髪の青年は、喉を押さえて咽せつつ身を起こす。
その顔は小さく笑っていた。
解けかけの腕の包帯を外し、自身の頭部の血と、来客の唾とをまとめてぬぐう。
少女が青年の前にしゃがみこむ。
「さっきの、北の首領の息子だよね。帰ってきたんだ」
「東に提供した武器弾薬がずいぶんと堪えたようだな。今後、北以外に兵器提供したら俺は殺されるらしい」
「どうするの」
「訊くまでもないだろ。どっかの傘下に入るくらいなら、最初から中央に住んでない」
「いんや、だいぶびびってたみたいだからさぁ」
「生理現象だから、しゃーない」
立ち上がろうと身体を動かした青年が、痛てて、と呟いて頭を押さえる。
介助するべく手を伸ばす少女が、ぽつりと呟いた。
「……レオるん、ボクちょっと思うところがあるんだけど」
「なに」
少女が何か言いたげな視線で、青年をじっと見る。
青年は表情を変えず、あごで急かす。
少女は諦めたように目線を足元に移し、不満げな表情を浮かべる。
「いつまでそうやって――社会的弱者のフリをするのかなぁって。レオるんがマジになったら、この“大平原”に倒せないヒトなんて居ないのに、さ」
青年はしばらく黙ってから、同じように足元を見て。
「フリじゃない。義足やら車椅子やら使って歩こうと走ろうと、社会的弱者であることには変わりないだろ。道具がなきゃ生きれない。結局は弱者だ」
「吹っ飛ばされたら道具も生身も同じでしょ、ハンデじゃないでしょ。あのね、人間はねぇ、人間だから道具が使えるんだよー」
「サルも道具を使う」
「んー、あー、そうなんだけどさぁ」
「ああ痛ぇ。ユスク、救急箱もってきて」
「はいはい」
いつもどおりのはぐらかしに少女はため息をついて、青年に背を向け棚に向かう。フードから覗く灰色の髪が、駆けていく弾みで可愛らしく揺れる。
2022/2/28 加筆修正