プロローグ
桜の花が散り出した暖かい陽気の中、『隼炎学園高等部』の体育館では新1年生となる生徒達が集まっていた。壇上ではこの学園の校長が話をしている。教師達は緊張している生徒達を暖かい眼差しで見つめている。…と、ゆう訳では無い。完全に疲れていた。その理由は校長にある。まだ入学式のプログラム的には開式の言葉の次のはずなのだが、彼が話し始めて既に35分と6秒が経過した。あ、もう7秒…。まあ、それは置いといてとにかく話が長いのだ。なので生徒達はもちろんのこと、教師達ですら、疲れを隠そうとしていない。
「……で、あるからにして諸君らに望む生徒像とゆうのは、この学園の校訓である礼節・英知・勤勉を常に意識して生活を送って欲しいとゆうものだ。(省略)……で、あるからにして諸君らに望む生徒像とゆうのは、この学園の校訓である礼節・英知・勤勉を常に意識して生活を送って欲しいとゆうものだ。」
と、こんな感じで同じことを繰り返してるのだから、その反応は当然だろう。そしてそんな長い話に疲れているのは何も新入生や教師陣だけではない。体育館の隅の方には3人の学生が整列をしていた。2人の男子学生と1人の女子学生だ。
「なあ美和子、長話のやつ俺らの入学式の時もあの話してなかったか?」
と、小声を発したのは切り揃えられた茶髪に整った顔立ちで、190cmはあろう長身の生徒。胸には3学年のカラーである紅色のエンブレムを付けていて、腕には『生徒会長』と書かれた腕章を巻いている。
「聖夜、いつも言ってるでしょ。長話じゃなくて、永林先生だって。まあ、気持ちは痛いほど分かるけど、会長としての自覚を持ってちょうだい。」
呆れながらに指摘したのは女子生徒。長く伸ばした黒髪は清潔感を漂わせ、見れば大和撫子を連想する優しげな顔。同じく紅色のエンブレムを付け、腕には『副生徒会長』の腕章がある。
「宮古野先輩、言うだけ無駄っすよ。聖夜先輩はそうゆう人です。」
完全に諦め発言をしたのは、2学年の蒼色のエンブレムを付けて、腕。ではなく腰のベルトに『会長補佐』と書かれた腕章を吊るしている青年。街によくいるチャラ男感満載だ。
「おいおいユッキー、俺だって学習するんだぜ。」
「なら色々と改善しなさい!」
と、式そっちのけで話し始めている。この3人の名前は話を始めた順に、『鞘嶺 聖夜』・『宮古野 美和子』・『由岐村 幸雄』だ。それぞれこの学園の生徒会役員としてこの場に参加している。
「ま、それはいいとして聖夜の方は大丈夫なの?歓迎の挨拶はこの後よ?」
「任せとけって。今日は聖優がいるんだからバッチリだぜ!」
「宮古野先輩…。俺、不安しか感じないっす。」
「奇遇ね、由岐村君。私もよ…。」
「お、そろそろ終わりそうだぞ。」
と、聖夜の声でステージに目を向ける2人。
「では、これから3年間、短い話ではあったが今の話を忘れずにしっかりと学園生活を送ってくれ。以上だ。」
永林校長はそう言って壇上を降りていく。この時、体育館にいる者が思ったことはただ一つ、「話長いわ!そして覚えられるか!!」であった。
「おい、美和子。記録更新だぞ!43分32秒だ。前より3秒延びたぞ!」
「…。」
1部の生徒を除いては…。
「続きまして、プログラム3番歓迎の挨拶。生徒会長、鞘嶺君お願いします。」
「はい!」
司会の言葉に返事をしてステージに登っていく聖夜。女子生徒からは黄色い悲鳴が上がる。
「えー、生徒会長の鞘嶺聖夜です。なっがーい話は校長先生にお任せして、私は手短に。」
しれっと校長をディスりつつ、言葉をつづける。
「1つだけ皆さんに注意をしておきます。」
優しそうな顔からとたんに表情を変える聖夜。
「今年度の新入生にはな、俺の妹がいる。もし泣かせでもしてみろ。俺が直々に締めに行くからな!覚悟しておけ!そして男子。もし聖優と付き合いたいってんなら、まずは俺に許可を取ってからにしろよ!」
まさに鬼の形相でまくし立てた聖夜は、表情を元に戻した。
「短い話ではありましたが、今言った話を忘れずにしっかりと学園生活を送ってください。以上で終わります。」
校長と同じ言葉で話を終わらせる。
この時、体育館にいる者が思ったことはただ一つ、「この、シスコンがあぁぁぁあ!」である。
「えっと、今のは言葉のアヤでして、みなさんのことを実の妹のように考えているとゆうことですから!」
司会のマイクをぶん捕り、苦しい言い訳(本人としては聖夜のフォローな訳だが)をする美和子。
「聖夜先輩!全然バッチリじゃないっすよ!アウトですからね!」
無駄と分かっていながらも聖夜の注意をする幸雄。どうやら今回も1部の生徒を除いてはとゆう条件付きで会場皆の心は一致したのだった。
「生徒会役員、式が終わったら生徒指導室に来なさい!」
そして、こうなるのは自然の摂理である。