銃爪
これからオレはこの衆人環視のなか、新郎のレッド・プリンスを狙撃する。こんなおめでたい日にアレだけど、彼には死んでもらう。それしかメグを救う方法はない。
メグはなぜ、いまあの場所にいるのだろう。彼女が望んでやったこととは思えない。好きでもない相手に嫁ぐなんて……。
きっと、彼女なりに考えてこうしたに違いない。
メグの願いはただひとつ、猫人間たちの里を護ること。そのために彼女は自分の身を暴君に差し出したのだ。
いや、暴君かどうかはまだ、わからないけれど……。わかるまえにあの世に逝ってもらうことになるけれど。
ちょっと、ごちゃごちゃ言ってないで早く殺るわよ、と浦野さんが急かした。
え、聞こえてたんすか? オレの脳内独白が?
丸聞こえよ。いい、何度も言うけどこれはあなた自身のゲームなのよ? ようするに、コントローラーを握った状態でぶつぶつ言っているのとおなじなの。
あのー……それじゃあ、浦野さんってばどういう存在なんすか。
味方キャラでいいんじゃね? さ、アタシがカバーするから、ずどんとやっちゃって。
オレは呼吸を整えると十円銃に手を伸ばした。「二丁拳銃」……だがいまは片方だけでいい。
頭の中でイメージする。右手でさっと銃を抜き銃爪をひく。すると十円玉が発射されてレッド・プリンスの脳天を……はやく撃てっての!
すべてがスローモーションに見えた。脳天を射抜かれた王子はゆっくりと倒れて行った。彼はテラスの上なので、くわしい状況はわからないけれど。
十円銃はふつうの銃ほど轟音を発しない。せいぜいぱすっ、くらいしか音がしない。狙撃したのがオレだとわかるまでに、いくらか時間があった。べつに逃げる気もなかった。
悲鳴があがり、人々はオレという中心から一斉に離れて行った。すると今度は兵隊たちがかわりに、オレを中心に集まってきた。もちろん歓迎されているわけでは、ぜんぜんない。
さあ、いいですよ浦野さん。オレは脳内で合図した。ま、聞こえていようがいまいが、チャンスはこの一度きり。彼女が援護してくれなければ、オレは兵隊たちによって蜂の巣にされる。
身を伏せると同時に、オレの頭上でアレが炸裂した。浦野さんの遠隔操作による「爆弾石」だ。
もともと全方位に散弾するおそろしい十円銃だが、今回のみ高さ固定でお願いしている。伏せているオレに弾が当たったら、洒落にならないからね!
兵隊たちは瞬殺だった。ちょうど彼らがオレを蜂の巣にしようとしたのと、逆のことが起きたわけだ。




