花嫁
「あー……えっと、どこから聞けばいいんスか?」
オレは浦野さんにむかって言った。とりあえず、この状況を説明してもらわないと。
「悪いけど、例によって時間がないのよ。いろんな意味で時間がないの」
「どうすれば、」
「メグを取り返す。さもないと彼女は、レッド・プリンスのお嫁さんになっちゃうのよ?」
その話はほかでもない、サファイアのひとみの口から聞かされていた。いまは浦野さんだけど。
「それって、でも、メグ自身が望んだことなんじゃ……」
「そう、人身御供といえば悲劇の定番よね」
「悲劇って」
「忘れたの? ここはゲームの中なのよ」
オレは首を振った。
「とてもじゃないけど、そんなふうに思えないっす。リアルすぎて……」
すると彼女はぽんぽん、とオレの肩を叩いて言った。
「だからね、悲劇のシナリオを変えちゃえばいいのよ」
「……いいんですか、そんなことして」
「いいに決まってるじゃない、だって、この世界のヒーローはあなたなんだもの」
……そうなの? まあ、薄々そうじゃないかなーって思ってはいたけど。なんだこれ、ぜんぜん嬉しくないぞ。
なんでオレなの? いや仮にオレ自身が望んだとしてもだ。ヨーメンマンて、おかしくね?
しかも現実とゲームのあいだを何度も往復したりして、さらにメグや浦野さんまで巻き込んだりして。
むしろ巻き込まれているのはオレか。
目のまえの景色が一瞬にして変わった。石畳。ものすごい観衆。ものすごい歓声。けっしてご都合主義なんかじゃあ、ござんせん。
大勢の人々が彼と彼女を祝福していた。彼はたぶん、この国の王子だ。だってお城のテラスから手を振っているなんて、王家の人間くらいしか思い着かない。王様にしては、ちと若い。にんじんみたいな赤毛をした、あばた面のガキだった。
となれば、その横で白無垢に身を包んでいるのが彼のお嫁さんだろう。そしてオレらの目的の女性でもある。
今日は国を挙げての盛大にして華やかな婚礼パーティーであるらしい。パーリーであるらしい。
こんなたくさんの方がたに来ていただいて、本当にあざっす。あ、違うか。いや、いいのか?
だってこのゲームの主役はオレだからね!




