老
「オレらはミス・チーノの友だちで、これから彼女に会いに行くんだけど……一緒にどうかな、ベニ・ショーガ氏」
咄嗟にオレは提案した。少なくともウソを含んだ内容じゃない。メグの居場所は正確にはわからないが、ある程度目星はついていた。
猫人間の動きが止まった。彼はゆっくり振り向くとオレを見た。そして、あろうことか……また猫ちゃんの姿に戻ってしまった。
「なんなの……いったい」
レイチェルが呆然としながら呟いた。オレも同感です、はい。
と、いきなり寝室のドアが開いた。中から出てきたのは、ひとみだった。彼女以外誰も寝室にいたはずがない。だが、妙に違和感があった。
「ひとみ、さん?」
「遅くなってゴメンね石原さん」
目のまえの女性はそう言って手を合わせた。そうか、若干違和感があったのは彼女が少し老けていたからだ。
サファイアのひとみを老けさせれば、それはまんまあの女性になる。
「浦野さん……っすか」
彼女はにっ、と肯定の笑みを浮かべた。ここへきた理由も道理もわからない。でもなんだか心強かった。
しばらく猫人間の里に身を置いていたオレにとって、現実の世界の人間がきてくれたことが、なにより嬉しい。
「サファイアのひとみ?」
レイチェル将軍が怪訝な顔で言った。無理もない、だが彼女が急に老けた理由を説明する気にはなれなかった。
オレは黙って浦野さんの反応を待った。すぐに彼女は助け舟をだしてくれた。
「レイチェル将軍、とりあえず猫ちゃんを連れて里へ戻ってください。アタシは彼と一緒に聖女を取り返しに行きます」
「彼女の居場所を知っているの?」
レイチェルはものすごい形相でオレに詰め寄った。
「あ、あの……いろいろ立て込んでいて、話すきっかけがつかめなくて」
オレは慌てて弁明した。いや、弁明にすらなっていないけど。
はあ、と大きくため息を吐くと、レイチェルはオレを見て言った。
「……わかったわ。なんだか、アタシたち猫人間には入り込めないような事情があるみたいだし、これ以上は立ち入らない。あなたたちがどっちの側に立とうと自由よ」
「いや、オレらは猫人間の味方っすよ? それはメグの意志でもあるし……」
「そうね、信じて待つことにするわ」
それだけ言ってレイチェル将軍はログハウスを出て行った。もちろん、猫ちゃんのベニ・ショーガ氏を連れて。




