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十円玉が、なまら痛かった件  作者: 大原英一
第三部 ゲームの戦争
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ログハウスにて

 レイチェルの到着まで5時間も待つのか長げーな……と思ったら、そんなことはなかった。

 さっきひとみがくれた一本の缶ビール。あんなもので、そう酔っ払うはずもない。だが、この眠気はいったいなんだ?

 オレまでロング・スリープに入りそうな勢いだった。ちょうど居心地のよさそうなソファが見つかり、そこに腰をおろすなり、あっちゅう間に夢の世界へと引き込まれた。



「……ねえ、ちょっと! 大丈夫?」

 裏拳で頬を叩かれたのが地味に痛かった。爆睡していたオレを起こしてくれたのはレイチェルだった。

 猫人間の彼女は指先に鋭利な爪がある。裏拳を選んでくれたのは、きっと彼女のやさしさだろう。地味に痛かったけど……。

「あ、すいません……爆睡してました」

「なーご」

 一匹の猫を胸にかかえたレイチェルは、はあ、と深く息を吐いた。この猫がたぶん、ベニ・ショーガ氏だ。


「心配したわよ、毒でも盛られたんじゃないかって」

「大丈夫です、ただのビールですから」

「なーご、なーご」

 急に猫がむずかり出した。

「なに、どうしたの?」

 レイチェルが床に猫をおろすと静かになった。


 そのまま猫は寝室へと歩いて行った。ひとみが寝ている部屋だ。

 なぜか寝室のドアが開いていた。おかしいな、オレが出るときに閉めたはずなのに……。と、そんなことを考えているうちに、猫が寝室へ入ってしまった。

「あ、ちょっと!」

 レイチェルがあわてて後を追った。

 そのときだった。わずかに開いたドアから、青い光が一瞬パッとさした。すると、寝室から誰かが出てきた。ひとみではなく、猫人間だった。


「ダーリン!」

 それは、まぎれもなくベニ・ショーガ氏だった。ようやく元のすがたに戻ったのか……。レイチェルがたまらずに抱きついた。

「ごきげんよう、ミス・チーノ。……おや、しばらく見ないうちに、毛深くなられた?」


 オレもレイチェルも、目が点になった。かならず彼の発言は、おかしかった。

「ちょっとダーリン……大丈夫? アタシのこと、わかる?」

 だが彼の返答は絶望的なものだった。

「ミス・チーノでは、ないので?」

 レイチェルがダメだこりゃ、みたいなかんじでオレのほうに駆け寄った。そして小声で、

『ミス・チーノって誰よ?』

『聖女のことです。メグリア・ペペ・ロンチーノ。長ったらしいので、チーノと』

『そうじゃなくて。なんでアタシとあの娘を間違えるのよ!』

『……わかりません。記憶が、ヤバいことになっているのかも』


「アタシはレイチェルよ。しっかりしてよ、ダーリン……」

 ほぼ泣き声の彼女を、猫人間はさらに絶望へと追いやった。

「ミス・チーノではない? ならばワタクシは失礼します」

 彼はそう言って、そそくさと玄関へむかった。


「あ、ちょっと待ってよ」

「失礼。ミス・チーノ以外のかたと、お話しできないのです」

 オレが引き止めたが、にべもない。そこで、あることを考えた。

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