ログハウスにて
レイチェルの到着まで5時間も待つのか長げーな……と思ったら、そんなことはなかった。
さっきひとみがくれた一本の缶ビール。あんなもので、そう酔っ払うはずもない。だが、この眠気はいったいなんだ?
オレまでロング・スリープに入りそうな勢いだった。ちょうど居心地のよさそうなソファが見つかり、そこに腰をおろすなり、あっちゅう間に夢の世界へと引き込まれた。
「……ねえ、ちょっと! 大丈夫?」
裏拳で頬を叩かれたのが地味に痛かった。爆睡していたオレを起こしてくれたのはレイチェルだった。
猫人間の彼女は指先に鋭利な爪がある。裏拳を選んでくれたのは、きっと彼女のやさしさだろう。地味に痛かったけど……。
「あ、すいません……爆睡してました」
「なーご」
一匹の猫を胸にかかえたレイチェルは、はあ、と深く息を吐いた。この猫がたぶん、ベニ・ショーガ氏だ。
「心配したわよ、毒でも盛られたんじゃないかって」
「大丈夫です、ただのビールですから」
「なーご、なーご」
急に猫が憤り出した。
「なに、どうしたの?」
レイチェルが床に猫をおろすと静かになった。
そのまま猫は寝室へと歩いて行った。ひとみが寝ている部屋だ。
なぜか寝室のドアが開いていた。おかしいな、オレが出るときに閉めたはずなのに……。と、そんなことを考えているうちに、猫が寝室へ入ってしまった。
「あ、ちょっと!」
レイチェルがあわてて後を追った。
そのときだった。わずかに開いたドアから、青い光が一瞬パッとさした。すると、寝室から誰かが出てきた。ひとみではなく、猫人間だった。
「ダーリン!」
それは、まぎれもなくベニ・ショーガ氏だった。ようやく元のすがたに戻ったのか……。レイチェルがたまらずに抱きついた。
「ごきげんよう、ミス・チーノ。……おや、しばらく見ないうちに、毛深くなられた?」
オレもレイチェルも、目が点になった。かならず彼の発言は、おかしかった。
「ちょっとダーリン……大丈夫? アタシのこと、わかる?」
だが彼の返答は絶望的なものだった。
「ミス・チーノでは、ないので?」
レイチェルがダメだこりゃ、みたいなかんじでオレのほうに駆け寄った。そして小声で、
『ミス・チーノって誰よ?』
『聖女のことです。メグリア・ペペ・ロンチーノ。長ったらしいので、チーノと』
『そうじゃなくて。なんでアタシとあの娘を間違えるのよ!』
『……わかりません。記憶が、ヤバいことになっているのかも』
「アタシはレイチェルよ。しっかりしてよ、ダーリン……」
ほぼ泣き声の彼女を、猫人間はさらに絶望へと追いやった。
「ミス・チーノではない? ならばワタクシは失礼します」
彼はそう言って、そそくさと玄関へむかった。
「あ、ちょっと待ってよ」
「失礼。ミス・チーノ以外のかたと、お話しできないのです」
オレが引き止めたが、にべもない。そこで、あることを考えた。




