夢の共有
ち、と電話のむこうで舌打ちが聞こえた。ほんと、すみませんしょっぱい男で……。
「いいわ、あんたの居場所をGPSで探知して、アタシがクルマで迎えに行く」
「え、司令官が里を離れて大丈夫なんですか?」
「いまは、それどころじゃない。もう魔女には助けてもらえないし、ダーリンもこの状態じゃ話にならないわ」
そしてレイチェル将軍は、なにかに縋るように言った。
「せめて、せめて聖女だけでも、取り返さないと」
いったん電話を切ったあと、レイチェルからふたたび着信があった。
GPSで調べたところ、彼女がここへ着くまで5時間くらいかかる、といった内容の電話だった。
わかりました、そう言ってオレは通話を終えた。ほかに言葉が見当たらなかった。
ひとみは依然眠ったままだ。ふとした拍子に彼女が起きるんじゃないか、などと期待してみたが、そう都合よくはいかないらしい。
とりあえず、ひとみをきちんと寝かせてあげよう。オレは眠っている彼女を抱き上げて寝室まで運んだ。
軽っ! びっくりするくらい彼女は軽かった。これであの強さって……。ふと思った、彼女はこの世の者ではないんじゃないか。
ま、オレも似たようなものだが。
はじめてお邪魔するお宅の、それも妙齢の女性の寝室に入るなんて、正直気が引けた。でも、この場合しゃーないからね?
ゆうてもログハウスだ。部屋のつくりは、いたってシンプルだった。が、そこは女性らしく、寝室にはいろいろな織物や衣服が壁にかけられていた。
あまりジロジロ見るのもわるいので、ひとみをベッドに寝かしつけるなりオレは退散した。
寝室を出たあとで、あ、そういえばと思った。壁にかけられていた衣服に見おぼえがあったのだ。
あれはベニ・ショーガ氏が着ていた服にそっくりだった。
ひとみはベニ・ショーガ氏のことが好きだと言った。レイチェルが聞いたら、たぶん、めっちゃ怒ると思うから言わないつもりだが。
それにしても、なぜそんなことになったのだろう?
すくなくともベニ・ショーガ氏は、サファイアのひとみを敵対視していたはず……。
やはり、ひとみが言っていた夢の世界とやらが、関係しているのか。
夢を共有する。そんなことが、はたして可能だろうか。できそー、この魔女ならできそー。
彼女の寝顔はやすらかだった。あるいはベニ・ショーガ氏の夢を見ているのかもしれない。




