ロング・スリープ
思わず言葉をうしなった。ただでさえハイ・スペックのこの魔女にメグの能力が加わったなら、そりゃもう最強ですよ。
「それで……」
「ふたつのことが、わかった。ひとつは、メグがレッド・プリンスに嫁ぐつもりでいること」
「えーっ!」
「もうひとつは、サファイアのひとみが……アタシ自身が超ロング・スリープに入ること」
正直、驚いているヒマもなかった。言い終わると同時に、魔女は脱力した。目を閉じ椅子にもたれかかり、手は宙ぶらりに……。
「ひとみさん……ひとみさん!」
どうやら冗談では、なさそうだった。彼女の身になにが起こったのか、もちろんオレにはわからない。
だが先の戦闘で、ひとみがはげしく消耗したのは事実だ。そうまでして里を護ろうとした彼女の気持ちに胸があつくなった。
……どうしよう、オレは途方に暮れた。ここがどこであるかすら、わからない。どこへ行くべきか、どこへ帰るべきなのか。
悲しくなるほどオレは無力だ。
と、そのとき不意にオレのスマホが鳴った。
「もしもし」
「ヨーメンマン? レイチェルだけど」
「あ、どうも」
女将軍からだった。里でなにか、あったのだろうか……。
「困ったことになったわ。すぐに戻ってこれない?」
「……ムリです。オレのほうも困ったことになりました」
「なに、まさかあんた、本当に手籠めにされちゃったの?」
「だから違うって!」
いつまで下ネタを引っ張るつもりなんだこのヒト……じゃなかったこの猫人間。まあいい、ここでキレてもしゃーない。
オレはレイチェルに、ひとみが超ロング・スリープに入った経緯を話した。
「マジで? じゃあ、いつ起きるかわかんないってこと?」
「ええ……それより、里でなにかあったんですか」
オレが促すと、電話のむこうでレイチェル将軍はすこし口ごもった。
「それがね、帰ってきたのよ。……ダーリンが」
「え、まさかベニ・ショーガ氏、怪我でもしたんですか? それとメグは……」
返答までに、たっぷりの間があった。
「帰ってきたのは、ダーリンだけ。それも猫のすがたで」
胸がざわついた。ベニ・ショーガ氏が猫のすがたを晒すなんて、滅多にないと彼自身が言っていたのを思い出した。
「ずっと、猫のすがたのままなのよ……」
レイチェルは若干、涙声だった。
あっちでも、こっちでも、ヤバいことが起きていた。しかも問題は根っこのところで、つながっているような気がした。
言わずもがな、メグの不在である。
「……あんた、いまどこにいるの?」
「わかりません。鳥の背に乗って、かなり遠くまできました」
「これから、どうするつもり?」
「途方に暮れていたところ、です」




