鳥の引力
人生において、ネ○ーエンディング・ストーリーの真似事ができる機会なんて、そうそうないだろう。幸か不幸かオレはいま、あの有名なシーンを再現している真っ最中だった。
巨大生物の背に乗り、空を駆ける。……違った、ものすごくでっかい小鳥だった。それをもはや小鳥とは呼ばない。怪鳥?
おまけに、となりには知り合ったばかりの魔女がいる。魔女と空中ドライブだ。
当たり前だが地上20メートルの高さを鳥の背に乗って飛んだためしなど、あるわけがない。本来なら吹き飛ばされないように、しがみつくのが、やっとのはず。
そこは魔女のナビゲーターがついているだけのことはある。風の抵抗とか鳥の引力(慣性の法則)とか、いい具合に調整してくれている。たぶん魔法で。
正直、空の上は快適だった。サファイアのひとみ……魔女がオレをどこへ連れて行くつもりなのか、それがわからなかった。
飛行時間は思ったより長かった。30分以上は飛んでいたと思う。ひとみは途中、うつらうつらしていた。
そういえばさっき眠いみたいなこと言ってたな。しっかし、寝ながら怪鳥を制御するってスゲーな……。
オレらを乗せた鳥は、やがて着陸態勢に入った。羽をばっさー広げて。
着いた場所は草原だった。魔女はひょいと身軽に鳥の背から降りた。お転婆すぎるだろ。オレもそれにつづいた。
「ご苦労さま」
魔女がぱちん、と指を鳴らすと、怪鳥は小鳥のサイズに……ならなかった。かわりに家になった。
うっはー、目が点ですよ。じゃあ最初から家のかたちで飛べば、よかったんじゃね? お転婆すぎるか。
「ここが、ひとみさんの家っすか」
オレが聞くと、彼女はふふ、と笑った。
「そうね……もうだいぶ長いこと、住んでいるような気がする」
それは、この建物にって意味ですよね。土地はさっき、ものすごく適当に選びましたよね。
「さ、どうぞ入って」
家、っていうかログハウスのなかは、あやしい雰囲気につつまれていた。外はまだ陽が射しているのに、部屋のなかは薄暗かった。ランプの明かりさえ灯っていた。
「辛気臭くて、ごめんなさいね。明るい場所は基本的に苦手なの、すごく疲れるから」
「あ、ぜんぜん、かまわないっす」
オレは大げさに手をふった。そんな彼女が日中、あんな戦闘を繰り広げたのだから、それは相当な負担だったと思われる。
「ビール、飲むでしょ?」
「あ、すみません」
なんか恐縮した。
缶ビールはキンキンに冷えていて、やたら美味しかった。いったい、これはどんな魔法なんだろう。このログハウスは異次元とつながっているのか……。
聞きたいことは山ほどあった。どれから話せばいいか、わからなかった。