伏兵
「2対1なら有利、とか思わないでね? こっちにも味方がいるんだから」
ひとみが挑発するように言った。味方とはすなわち、オレのことだ。あまりお役に立てないかもだけど……。
「味方ぁ?」
黄色猫はオレを一瞥すると、ふんと鼻で笑った。
「行くぜ、マナリシ」
相方の軍人に声をかけるやいなや、いきなりネコマリンがひとみに襲いかかった。
まさかの打撃戦だった。
ネコマリンの鋭い爪が次々と繰り出される。が、ひとみも負けじとそれを防ぐ。目には目を、爪には爪をだ。ひとみの爪がめっちゃ伸びていた。うーん、さすが魔女。
軍人が動いた。本当なら、ここでオレがヤツを食い止めなければいけなかったのだ。あまりの速さについて行けなかった。
おそろしいことが起きた。軍人が攻撃に加わるのを察知した魔女は、ふたつに分裂した。いわゆる分身の術ってやつ?
軍人も容赦ない打撃で片方のひとみを追い詰める。分身したことでパワーが半減したのか、魔女は防戦一方だった。
とりあえず、とりあえず片方だけでも助太刀しないと。オレは自慢の「二丁拳銃」を抜いた。
「あ、」
さっきネコマリンが鼻で笑った意味が、ようやっとわかった。打撃戦に銃で助太刀することはできない。オレの撃った弾が仲間に当たる可能性があるからだ。
自分の不甲斐なさに歯ぎしりした。ぜんぜん役に立ってないじゃんオレ! ……やばい、このままひとみが倒されたら、次、確実に殺されるのはオレだぞ。
と、そのとき。音もなく人影があらわれ、グリーン・マナリシを斬りつけた。
「レイチェルさん!」
女将軍の、電光石火の一撃だった。
円月刀により真っ二つにされたマナリシは、ぼわん、と半透明の幽体となり昇天した。やっぱ、このルールは変わらないのね……。
相手がふたりじゃなくなった魔女は分身をやめた。一気に形勢逆転である。
「……くそう!」
状況が不利と悟ったイエロー・ネコマリンは攻撃の手を止め、逃走の態勢に入った。
「逃がすかよっ」
オレは完全にキレていた。つーか、一発も撃ちませんでしたなんて、格好わるくて彼女らに顔向けできない。
いけ好かない、でっかい猫人間をねらって銃爪を引いた。
草と土が大きく跳ね上がった。あれっ?
一匹の猫が走り去って行くのが見えた。ああーっ……そうだった、あいつら、いざってときは猫のすがたに戻れるんだ。
オレはレイチェル将軍に向き直って言った。
「ごめんなさい」




