開戦
地鳴りのような音がした。ついに敵軍がやってきたのだ。夥しい数の兵士が丘をのぼってくるのが見えた。
この城砦都市は高台に位置しているので、戦車とかそういう物騒なモノで駆け上がってくるのは、どうやら無理のようだ。
見る間にそこらじゅう敵兵で埋め尽くされた。見晴らしがいいのもまた困ったものだ。むこうからも、こちらが丸見えである。
なるほど、イエローなんちゃらとグリーンなんちゃらの連合軍だけあって、きれいに二色に色分けされている。
見たかんじ敵将はいないようだった。ま、おおかた丘の下で、戦車かなんかに乗って見物でもしてるんじゃなかろうか。
「ひとみさん、どうします?」
オレは聞いた。先手必勝である、ってゆうか、早く撃たないとこっちが蜂の巣にされそうだった。
「敵の出かたを待」
言い終わらないうちに魔女は倒れた。撃たれたのだ。
「ひとみさん!」
頭のなかがパニクった。怪我の程度は? こういうときって、どうすりゃいいの……。
と、そのとき。うつぶせに倒れているひとみの身体から、なにかが噴き出した。よくわからないが、水蒸気のようにみえた。
これって……霧?
霧に包まれ視界がまったく利かなくなった。敵もこちらが見えないのか、動く気配がない。
「とりあえず、雑魚は片付けたわ」
すぐ後ろで声がした。撃たれたはずの魔女が立っていた。
「……大丈夫ですか」
オレがそう聞くと、ひとみはふふ、と笑った。彼女の目が真ブルーに光っていた。
にわかに霧が晴れてきた。視界がクリアーになったとき、おそろしい光景を目にした。
敵兵の姿がひとりも見えず、かわりに、それとおなじくらいの数の石像が辺りに転がっていた。
「石っすか、敵を石にしちゃったんすか」
「うふふ、なんだか、ちょっとした遺跡みたいよね」
ひとみはまるで冗談のように笑った。怖えー……魔女怖えーよ。
丘の下で敵軍が慌てふためいている。そりゃそうだ、ここは死の丘だ。のぼってきた者は全員、石にされちゃうよ?
すると、敵に動きがあった。戦車から何者かが降りてきて、まっすぐ丘をのぼりはじめた。
どこの命しらずだ? が、そんなバカがもうひとり、おなじようにこちらへ向かってくる。
「親玉があらわれたわ」
「……え、それじゃあ」
サファイアのひとみは腕を組んだまま、しずかに言った。
「イエロー・ネコマリンと、グリーン・マナリシよ」
予備知識はまったくなかったが、どちらがイエロー・ネコマリンかは一目瞭然だった。というのも、片方は猫人間だったのだ。
猫人間のくせに猫人間たちの里を脅かすなんて、正義漢でもないオレだが腹が立った。
すると必然的にもう片方がグリーン・マナリシということになる。旧ナチスのような、わかりやすい軍人然とした男だった。
「イヤッハーッ! ……サファイアのひとみ、おめーが絡んでいるとは思わなかったぜ?」
うっわ、なんだこの黄色猫……。超ガラわるい!




