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十円玉が、なまら痛かった件  作者: 大原英一
第三部 ゲームの戦争
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トラスト

 となりでレイチェル将軍が露骨にイヤそうな顔をした。

 彼女にとって、ただでさえ人間のオレは胡散臭いのだ。それが魔女のことを知っているような素振りを見せれば、グルだと思われても仕方ない。

 レイチェルがオレの袖を引っ張った。さがっていろ、暗にそう言っているようだった。


「ようこそ大魔女さま。私がここの軍事責任者、レイチェル・ダンだ」

「はじめまして、ひとみです」

 なんかヘンな感じだった。どうしたってホステスっぽい。

「こちらのかたは?」

 ひとみがオレを見て言った。

「この男はヨーメンマンといって、人間の兵士だ。理由わけあって、いまは我が軍の味方をしている」

 女将軍がオレを紹介してくれた。オレはかるく会釈だけした。なんか、めっちゃ恥ずかしいぞ……。


「じつは、アタシも味方しようと思ってきたのよ」

 言ってひとみは妖艶に笑った。あやしいこと、この上ない。

「それは、ありがたい。ぜひ申し出を受けるとしよう」

 レイチェルはふたつ返事だった。こっちもあやしかった……どっちも、あやしかった。


「ただし、」

 ほらきた。女将軍の言葉にはつづきがあった。

「貴女を城壁の内側に入れるわけには、いかない。ここで戦ってもらう。ここで城壁を死守してもらえれば、たいへんに、ありがたい」

「お安いご用よ」

 魔女はいっさい表情を崩さずに引き受けた。

 不可解だった。どこの世界に好き好んで、劣勢に味方する者がいるだろう……あ、オレか?


「ヨーメンマン、おまえも大魔女さまとともに、ここで戦え。いいな」

「……あ、はい」

 断われるかっ。レイチェルの、わかったわね光線が半端なかった。

「食事など必要なものは届けさせる。だが、まもなく開戦だ。よろしく頼む」

 そう言って女将軍は城内に帰って行った。自由すぎるだろ!


 たしかに、オレのミッションは城壁を護ること。いずれはここで戦う羽目になるのだ。それはいい。

 問題はこのご婦人だ。サファイアのひとみ……魔女の目的はなんだ。

 味方するとか言っておきながら、もし彼女が裏切ったら、たいへんだぞ? そのときはオレが、まっさきに彼女を撃たなくちゃいけない。

 ……たぶんレイチェルは、オレに監視役も含めてここに残れと言ったのだろう。まあ、それしかないよね。


「さっき、アタシになにか言ったわよね?」

 いきなりひとみに声をかけられ、オレは思わずびくっとした。

「……あ、いえ、貴女が知り合いに似ていたものですから」

「そう。あなたも日本からきたの?」


 動悸が激しくなるのを感じた。日本という言葉が、こんなにも異質に聞こえたことはなかった。

「貴女は、いったい……」

「あまりお喋りしている余裕はなさそうだけど、ひとつだけ言っておくわ。アタシはあなたの味方、信用して」

 彼女はそう言って微笑んだ。

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