トラスト
となりでレイチェル将軍が露骨にイヤそうな顔をした。
彼女にとって、ただでさえ人間のオレは胡散臭いのだ。それが魔女のことを知っているような素振りを見せれば、グルだと思われても仕方ない。
レイチェルがオレの袖を引っ張った。さがっていろ、暗にそう言っているようだった。
「ようこそ大魔女さま。私がここの軍事責任者、レイチェル・ダンだ」
「はじめまして、ひとみです」
なんかヘンな感じだった。どうしたってホステスっぽい。
「こちらのかたは?」
ひとみがオレを見て言った。
「この男はヨーメンマンといって、人間の兵士だ。理由あって、いまは我が軍の味方をしている」
女将軍がオレを紹介してくれた。オレはかるく会釈だけした。なんか、めっちゃ恥ずかしいぞ……。
「じつは、アタシも味方しようと思ってきたのよ」
言ってひとみは妖艶に笑った。あやしいこと、この上ない。
「それは、ありがたい。ぜひ申し出を受けるとしよう」
レイチェルはふたつ返事だった。こっちもあやしかった……どっちも、あやしかった。
「ただし、」
ほらきた。女将軍の言葉にはつづきがあった。
「貴女を城壁の内側に入れるわけには、いかない。ここで戦ってもらう。ここで城壁を死守してもらえれば、たいへんに、ありがたい」
「お安いご用よ」
魔女はいっさい表情を崩さずに引き受けた。
不可解だった。どこの世界に好き好んで、劣勢に味方する者がいるだろう……あ、オレか?
「ヨーメンマン、おまえも大魔女さまとともに、ここで戦え。いいな」
「……あ、はい」
断われるかっ。レイチェルの、わかったわね光線が半端なかった。
「食事など必要なものは届けさせる。だが、まもなく開戦だ。よろしく頼む」
そう言って女将軍は城内に帰って行った。自由すぎるだろ!
たしかに、オレのミッションは城壁を護ること。いずれは外で戦う羽目になるのだ。それはいい。
問題はこのご婦人だ。サファイアのひとみ……魔女の目的はなんだ。
味方するとか言っておきながら、もし彼女が裏切ったら、たいへんだぞ? そのときはオレが、まっさきに彼女を撃たなくちゃいけない。
……たぶんレイチェルは、オレに監視役も含めてここに残れと言ったのだろう。まあ、それしかないよね。
「さっき、アタシになにか言ったわよね?」
いきなりひとみに声をかけられ、オレは思わずびくっとした。
「……あ、いえ、貴女が知り合いに似ていたものですから」
「そう。あなたも日本からきたの?」
動悸が激しくなるのを感じた。日本という言葉が、こんなにも異質に聞こえたことはなかった。
「貴女は、いったい……」
「あまりお喋りしている余裕はなさそうだけど、ひとつだけ言っておくわ。アタシはあなたの味方、信用して」
彼女はそう言って微笑んだ。




