兆し
どえらいことに、なりましたよ。えーと、これっていちおうゲームですよね? 戦争になっちゃったんですけど……。
冷静になって考えてみる。オレがこの世界に飛ばされてきて、この十円銃で誰を撃ったか。何人撃ったか。
じつは誰も撃っていないのだ。
ブラックタイガーのおっさんを撃つには撃ったが、ヘンな魔力で跳ね返された。
だが一方で、この銃が、なんかしらないけど強力であるのもまた事実なのだ。コンクリの床や銅像の脚を吹き飛ばしたりした。
オレの「二丁拳銃」で人間や猫人間を撃ったらどうなる。死ぬのか? 実例がないので判断がつかなかった。
これまで、この世界で人が死ぬ(?)のを二回見た。はじめがチーノを襲ったふたり組で、つぎがブラックタイガーのおっさんだった。
どっちも手をくだしたのはオレじゃなく、現実世界にいる浦野さんが遠隔操作でやった。彼女の登録銃「爆弾石」が火を噴いた。じゃなくて十円玉を噴いた。
犠牲者たちは、あっけなく昇天した。血を流すわけでもなく、幽体となってふわふわとどこかへ消えたのだ。
まるでゲームみたいに。そう、もともとこれは浦野さんのゲームだった。だが状況は変わった。オレはいま、自分の意思で、自分の武器で人を殺めないといけない立場にある。
正直、こわかった。ゲーム感覚で人を殺めていいのだろうか。本当にこれはゲームなんだろうか……。
作戦本部の置かれた一室。窓際でレイチェル将軍が険しい顔をしていた。無理もない、これから大軍が押し寄せてくるというのだから。
彼女の表情を見るかぎり、とてもこれがゲームだなんて思えない。
猫人間たちの里であるこの城砦都市は、いま危機に直面している。そしてオレのミッションはここを護ること。運命共同体ってやつだ。
敵の数は数千はくだらないと聞く。そんな数を相手にオレの銃で立ち向えるだろうか。
無理じゃね? いや、案外とイケんじゃね?
不安と恐怖、そしてあきらめが入り混じった複雑な感情のもと、オレはひたすら開戦のときを待っていた。
と、そのとき。
「なによ、あれ」
窓際のレイチェル将軍が言った。オレは彼女のそばに近づいた。
鳥だ。でっかい鳥が城門目指して飛んでくるのが見えた。まるで悪い兆しみたいだった。
巨大な鳥は城門から200メートルくらい離れた平地に舞い降りた。きっと狙撃されることを恐れたのだろう。
さらに驚いたのは、鳥の背に人が乗っていたことだ。長い髪と衣装からして、遠目にも女性らしいとわかった。
「ちょっと、ウソでしょう」
レイチェルが目を見開いて言った。
「誰なんです?」
オレが聞くと、彼女は脱力したようにつぶやいた。
「……サファイアのひとみ、たぶん」




