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十円玉が、なまら痛かった件  作者: 大原英一
第二部 岩元恵美
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ファイン・ピンク・ミスト

 メグはかるく目眩いがした。いつの間にか濃い霧が辺りを包んで、3メートル先も見えないくらいだった。

 白い、白い霧だった。あれたしかここは、夜の路地裏じゃなかったかしら。そういう設定のグダグダなところもまた、いい。

「ベニーちゃん……」

 思わず猫人間の腕につかまった。

「どうやら、魔女の作り出した幻想が崩れているようです。『霧』はただの霧になって……あ、」


 声をあげて、猫人間は何かを指さした。メグがその方角を見ると、たしかに、あやしそうな雰囲気のものがあった。


 ピンク色に光る何かだった。この霧では正体などとても、わかったものじゃない。距離感もつかめない。だが、もうそっちへ行くしかないと思われた。

「行きましょう、ミス・チーノ」

「ええ……」

 メグは地べたに倒れている魔女をチラ見した。けっきょく撃ちはしなかったが、これ以上彼女を助けるのもまた、ちがう気がした。

 勘のいい猫人間がメグの手を引っ張り、ズンズンと歩き出した。これで、よかったのだ。


 ピンク色はその濃さを増していった。どうやらピンク色の何かが光っているのではなく、霧自体がその色に染まっているらしい。

 ちょっと神秘的で、若干エロかった。



 と、いきなり霧が晴れた。なんの前触れもなく、一瞬にして。

 この感覚はあれだ、お化け屋敷だ、とメグは思った。数秒前まできゃあきゃあ言っていたのに、はい出口です、みたいな。

 陽の光が眩しかった。

 メグと猫人間は沿道に立っていた。すぐ近くには、ふたりが旅に使っていたジープが停めてあった。

 これはもう、霧に飲まれる以前の状態に戻ったと、判断しちゃいますよ?


「さて、どうしますかねミス・チーノ」

「うん……また見えちゃった、かな」

「おほっ、得意の先読みですか。で?」

「レッド・プリンスに会いに行く」


 猫人間は深いため息を吐いた。

「それはまた、ごっつい相手ですね」

「とにかく行こっ。車のなかで話すから」

「かしこまりました」

 ふたりがジープに乗ろうとした、まさにそのときだった。

「魔女!」

 サファイアのひとみが沿道に立っていた。


「大丈夫よ、ベニーちゃん」

 円月刀に手をかける猫人間をメグが制した。

 メグにはわかった。ひとみにもはや敵意がないこと、そして、かつての美しさと威厳を取り戻していたことを。

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