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十円玉が、なまら痛かった件  作者: 大原英一
第二部 岩元恵美
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カリスマ

「くっ……うふふふふふふふふ」

 ひとみはまるで、風船から空気が抜けるように笑った。

「……気づかなかったわ。あのジープにベニー、あなたが乗っていたなんて」

「それこそがミス・チーノの作戦でした。ワタクシという存在を一度消して、あなたの記憶のなかで再構成させる。聖女もまた、あなたの内面世界に干渉したのです」

 猫人間はすこし悲しそうな目で言った。

「おかげで、ワタクシとあなたは、この『霧』のなかでは友だちだったようですね」


「ベニー……」

 魔女もまた目を細めた。

「いいのよ誰も恨んじゃいないわ。恵美ちゃん、あなたのこともね」

「アタシはメグ」

「そう、立派な聖女さま」

 言ってひとみはため息を吐いた。


「魔女。あなたはいったい、なにを手に入れようとしたんですか」

「これ……かな」

 猫人間の問いに、ひとみはてのひらをひらいて見せた。そこには彼女がさっき石碑から剥がしたものが、ぼんやりと青白く光っていた。


「なんですか、それ」

「聖女の心から剥がした『カリスマ』よ」

 ひとみはその物体を見せびらかしつつ、にひひ、と笑った。カリスマ性のかけらも感じられなかった。

「そんなものを手に入れて、どうするの?」

 メグが強い口調で聞いた。

「……忘れちゃったわ。みんなに好かれたかったのかな」


 あの美しくてミステリアスな大魔女は、いまは見る影もない。

「それ、『カリスマ』なんかじゃない」

「そうかしら」

 メグの指摘にも、ひとみは意固地になって掌中のものを放そうとしない。


「よく見て。それ、ただの十円玉だよ」

「へ?」

 魔女は素っ頓狂な声をだして掌をひらいた。すると、青白い光は消え失せ、ただの茶色い物体だけがそこにあった。汚ったない十円玉が。

「ふっ……ふざけないでよっ!」

 まさか、このタイミングでひとみがキレるとは予想だにしなかった。彼女は硬貨を地面に投げつけると、ものすごい形相でメグにつかみかかった。


「ちょ……やめて! 本当に撃つわよっ」

 メグの警告を聞こうともせず、魔女はひたすら少女の二の腕をつかんでいる。

「どこ! どこに『カリスマ』を隠してるのよ、教えなさい!」

 ひとみはそう叫びつづけた。狂気の沙汰だった。


「あぐっ」

 一瞬、魔女がヘンな声をだしたかと思うと、ゆっくりと彼女はその場にくずおれた。

「……ベニーちゃん」

 猫人間の仕業だった。彼が円月刀の柄の部分でひとみの鳩尾みぞおちを突いたのだ。

「魔女の処分は、あなたにお任せします。彼女は気をうしなっていますから、後頭部を狙って銃爪を引けば簡単に……」



「アタシは、」

 メグが猫人間の言葉を遮った。

「アタシには撃てない。……撃てばせん!」

撃てばせん、て(笑)

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