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十円玉が、なまら痛かった件  作者: 大原英一
第二部 岩元恵美
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ヨーメンマンズ・グレイヴ

「でもたまに、こうして、ベニ・ショーガさんと出かけられるんですよね?」

 すると、ひとみさんはまた寂しそうに微笑んだ。

「ええ……魔法の力で彼を呼び覚ますなんて、ズルいような気もするけど。それに、」

 彼女はそこで言葉を切った。

「彼を動かすことはできても自発的に喋らせることは、いまのアタシの力じゃ無理。一度トライしたことがあるんだけど、死にそうになった」


 そう言って彼女は自嘲気味に笑った。いやいやいや……笑いごっちゃないですから、マジで。


「本当に、ムリしないでくださいね」

「心配してくれて、ありがとう。ベニーを物理的に動かすだけなら、大した苦労ではないの。……精神とか、言葉とか、その領域に踏み込もうとするとたいへんね」

 ひとみさんに見つめられ、恵美は思わずドキッとした。

「あなたの心のなかを覗いたりしないから、安心して。興味はあるけど」


 恵美は赤面したまま言葉をうしなった。この人、たまに冗談だか本気だか、わからないこと言うからなあ……。


 やがて馬車は歩みを止めた。どこかに到着したらしい。ひとみさんは荷車の入口の幌を開けて言った。

「さ、降りましょう」

 恵美はそれに従った。ひとみさんが足元をランタンで照らしてくれた。


 石畳の広場だった。そしてすぐ近くには……あの噴水があった。いや、いまは見るかげもなく水は枯渇していた。

 恵美は辺りを見回した。家々や、どの建物もひどくボロボロだった。あのパン屋も見つけられなかった。それほど家屋は損壊し、他と見分けがつかなかったのだ。

「なーご」

 ひとみさんが猫を抱いて戻ってきた。お勤めを果たした猫人間は猫になり、ひとみさんの手で、幌で覆われた荷車のなかへと入れられた。 

「いい子で待っているのよ?」


 ひとみさんはランタンを、恵美はガラス瓶の水筒を持って歩き出した。恵美はただランタンが照らす方角へついて行くのみだった。

 目抜き通りを抜けると小さな路地に入った。その奥は突き当たりになっており、場違いに一本の樹が()っていた。

 ひとみさんの歩みが止まった。


「ここは?」

 恵美の問いに、ひとみさんはドヤ顔で答えた。

「ここは、ヨーメンマンの墓よ」


 思わず恵美は絶句した。

「ヨーメンマンて、あの『青い国』の物語に出てくる……」

「そうよ」

 そうよ、て。あの物語はフィクションだって、ひとみさんが言ったんじゃないですかー……。

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