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十円玉が、なまら痛かった件  作者: 大原英一
第二部 岩元恵美
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夜と昼

「この世界ではじめての友だち……それが恵美ちゃんだって、アタシこのまえ言ったわよね?」

 馬車のなか、正確にはガタゴト揺れる荷車のなかで、ひとみさんがいきなり聞いてきた。

「はい」

「あれは人間の、っていう意味。最初の友だちは、いま手綱を引いている猫人間だったの」


「ああ、そうですよね。おふたりとも、ツーカーの仲ですもんね」

「ベニーは命の恩人だった。彼がいなかったら、アタシは野垂れ死んでいたと思う」

 ひとみさんは遠い目をして言った。


 恵美にも実感があった。ついこのあいだまで、まさに死にかけていたのだ。

「ひとみさんが私を助けてくれたように、ですか」

「そう。ベニーはアタシに水と食べ物を与えてくれた。この廃墟の町で、どこからか食糧を調達してくるのよ。不思議だと思わない?」

「……はい、あの」

 ひとみさんは無言で促がした。恵美がなにを言わんとしているか、わかっているかのようだった。


「ベニ・ショーガさんは昼間に出かけられました。つまり滅亡していない、昼間の世界もあるんじゃないかと……」

 言いながら恵美は罪悪感をおぼえた。まるで、ひとみさん独りが死の世界に住んでいるような言いぐさである。


「そうね」

 と、ひとみさんは寂しそうに笑った。

「……不思議だったわ。眠りから覚めると、いつもベニーが食べ物や生活に必要なものを用意してくれている。あのログハウスも彼が建てたのよ」

「すごい」

 恵美はふつうに驚いた。

「でもね、ベニーと過ごせる時間は減っていった。どういうわけか、猫のすがたでいる時間のほうが長くなったの」


 恵美もそこが気になっていた。猫と猫人間、どちらが彼にとって常態なのか……。


「猫人間と話せる時間は、どんどん減っていった。そのかわり、アタシはどんどん力に目覚めていった」

「えっ」

「そうよ恵美ちゃん、最初から魔法が使えたわけじゃないの。そんな力があれば野垂れ死にしそうになんて、ならないでしょう」

 それもそうだ、と恵美は思った。


「けっきょく、アタシが起きているあいだは、ベニーは猫人間でいられなくなった。すれ違い生活のはじまりね」


 ひとみさんが眠っているあいだだけ、猫は猫人間となり、昼間の町へ繰り出すということか……。

「じゃあ、ベニ・ショーガさんはずっと、ひとみさんのために買い物をしてきてくれるんですね」

「うん、生かされているのは、いまもおなじ。……彼がどこへ出かけているのか、とか、お金はどうしているのか、とか、アタシもいまだにしらないの」

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