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十円玉が、なまら痛かった件  作者: 大原英一
第二部 岩元恵美
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夜走る

 夕食後、恵美はあと片付けを手伝った。その間ひとみさんは何も言わなかった。彼女はただ嬉しそうにニヤニヤしていた。

「よーし、お腹もいっぱいになったことだし、ちょっと夜のお散歩にでも出かけますか」

「は、はい」

 恵美は少したじろいだ。この家にきてから、外出するのははじめてだったからだ。


「じゃあ、うちの相棒を呼ぶわね」

 そう言うなり、ひとみさんの目が青く光った。誓って錯覚なんかじゃない。

 それがあまりに綺麗だったので、猫が猫人間になるところを見逃した。昼間とおなじ、ベニ・ショーガさんがそこに立っていた。


「ごめんなさい、省エネのために、ベニーはいま無言状態サイレントにしてあるから」

「はい、……ひとみさんこそ大丈夫なんですか? 不思議な力とか、いっぱい使っちゃうんじゃないですか」

 彼女はふふ、と笑って否定も肯定もしなかった。マジで無理してないかな、このひと……。


「恵美ちゃん、あれを忘れないで」

 出がけにひとみさんが言った。

「あれ、って?」

「ガラス瓶の水筒」

「あ、はい」

 あんなもの、どうして要るんだろうと恵美は思ったが、あれだ、ひとみさんの言うことに間違いはないはずだ。

 恵美は自分の寝室からガラス瓶を持ってきた。


 家の外はまさに闇一色だった。ひとみさんは小さなランタンをひとつだけ持って恵美を案内した。

 猫人間は夜目が利くらしいとかで、なにも持たず、なにも言わず先に行ってしまった。


 納屋に馬車が用意してあり、ベニ・ショーガさんは準備万端といったかんじで手綱を握っていた。

 ひとみさんの案内で、恵美は幌のかかった荷車に乗り込んだ。たぶん最初に助けてもらったとき、恵美が寝かされていた荷車だ。

 馬車はゆっくりと走り出した。


「あのう、外の景色を見てもいいですか」

「森を抜けるまで、ちょっと待ったほうがいいかな。どうせ真っ暗だし」

「あ、なるほど」

 しばらくすると、荷車が大きくカーブするのを感じた。

「いいわよ恵美ちゃん」

 ひとみさんの合図で、恵美は荷車の入り口を仕切っている幌をそっと開けた。


 思った以上に外は明るかった。月が煌々と辺りを照らし、それにおそろしいほどの星が空にはちりばめられていた。

 森のなかにある、ひとみさんの家からは見られない光景だった。べつにディスっているわけじゃ、ないですけど。

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