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十円玉が、なまら痛かった件  作者: 大原英一
第二部 岩元恵美
58/81

うどん

 えーと……ひとみさんが桃太郎桃太郎言うので、恵美は元の物語がなんだか、わからなくなってきた。

 そういえば、この本のタイトルってなんだっけ……。


【青い国】


 あらためて表紙に目をやると、そう書かれてあった。

「青い国って……あれ、青の軍隊なんて出てきましたっけ? たしか黄色と緑と赤の3色だったような」

「ね、おもしろいでしょう」

 ひとみさんはドヤ顔で言った。

「青っていうのが、どうやら、この国を象徴するカラーらしいわね。これはほかの文献でも調べたから、たしかよ」


「そうだったんですかー」恵美は頷いた。「最後に、赤が天下獲りましたよみたいな流れでしたけど、やっぱり、うまくいかなかったんですね」

「ま、そこは読者の想像におまかせ、みたいな。……でもね、なんとなく復讐の気配みたいなものを感じない?」


 そう聞かれて、恵美は思わずはっとした。

「猫人間の復讐……ですか」

「そう。里をめちゃめちゃにされて、滅ぼされて、それで『めでたしめでたし』とかたまらないでしょう」

「あ、鬼ヶ島」

「はい天才、恵美ちゃん天才ね」

 ひとみさんは大絶賛だった。拍手してくれた。


「この『青い国』はね、鬼の目線で語られた、もうひとつの『桃太郎』だと思うの。なぜ滅ぼされなきゃいけなかったの、鬼が何をしたっていうの?」

「いちおう、『桃太郎』では悪者っていうか……」

「悪者は桃太郎でしょ、ふざけないでよ」


 なんで私が怒られてんねん、と恵美は思ったが、すぐにひとみさんがフォローしてくれた。

「あー、ごめんっ、本当にごめん。……アタシこの話になると、ついテンションあがっちゃうんだよねー」

 彼女は手を合わせながら席を立った。

「さ、お夕食にしましょう。お鍋にするから、ちょっと手伝って」

「は……はい」


 手伝いといっても配膳くらいで、鍋の下ごしらえはすでにされていた。

 ネギ、白菜、お豆腐にキノコ類。そして魚介類。それを醤油ベースの出汁で炊く。ストレートど真ん中の和食だった。


 ひとみさんと鍋を囲んだ。なつかしい味に恵美は感動した。

「おいしいですっ」

「そう、よかった。ベニーが新鮮な具材を見つけてきてくれたみたい」

 そう言ってひとみさんは、足元の猫をなでた。猫はかつお節を齧るのに忙しく、ちょっと邪魔くさそうだった。

「私……ベニ・ショーガさんに会いました」


 恵美はようやくその言葉が言えた。ひとみさんは穏やかに微笑み、そして言った。

「シメは、うどんでいい?」

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