戦記
「猫人間の里は鉄壁の城砦都市で、また独自の技術力をもって武装化もされていた。
だが、黄と緑のふたつの軍勢をかけ合わせた大軍のまえには、さすがの城壁も持ちこたえることができなかった。
猫人間たちは最後の手段にでた。開城前にいっせいに地下へと逃げたのである……」
「開城と同時に黄と緑の連合軍が雪崩れ込んできた。彼らの目的は猫人間たちの捕獲だった。
獲物が地下へ逃げようものなら、これを阻止し、どこまでも追いかけよ。兵たちはそう命令されていた……」
「そこに、兵たちの追撃を阻む者があらわれた。ヨーメンマンという名の、人間の男だった。
人間が猫人間たちに味方したのだ……」
ヨーメンマン? 思わず恵美は顔をしかめた。ラーメンマンなら知っているけど……。
「ヨーメンマンはたった二丁の拳銃で大軍と渡り合った。彼の銃は特別だった。
しかし、何千という兵を相手に戦いつづけるなど、所詮は無理だった。彼は勇敢に戦い、そして散った……」
恵美はページを繰る手をとめた。なんだこれ、まじめな戦記かと思ったら……いわゆる英雄譚?
まあいいわ、とにかく先を読もう。
「ヨーメンマンの死は、けっしてムダではなかった。
彼は充分な時間を稼いだ。そのあいだに、すべての猫人間たちが地下へ逃げることができた。
それだけではない。猫人間たちは最期の抵抗をしてみせた。独自の技術で創りあげた街を、独自の方法で瓦解させたのだ……」
「城塞都市は一瞬で崩壊し、猫人間たちが逃げたと思われる地下への通路も永久に閉ざされた。
ヨーメンマンの遺体は、ついに発見されなかった……」
「城塞都市が崩壊したことで、突入していた連合軍もそうとうなダメージを負った。撤退を余儀なくされた、しかも戦果はゼロである。
黄と緑の仲間割れは必至だった。彼らは醜い争いをし、互いに衰弱していった……」
「そこへ台頭してきたのが赤の軍勢である。いわゆる漁夫の利を得た状態で、黄も緑ももはや抵抗する力をうしなっていた。
こうして悪の、もとい赤の帝国は誕生しその隆盛をきわめることになるのだが……つづく」
えーっ! ちょっと……地味につづきが気になるんですけど。次巻が読みたい、いますぐ読みたい。
「気に入ったかしら?」
気がつくと、ひとみさんが目のまえにいた。恵美は驚きのあまり椅子から転びそうになった。
「……え、ひとみさん、いつからそこに」
「うーん、ちょっとまえかな。だいぶ熱心に読んでたみたいね」
クスッと彼女は笑った。




