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十円玉が、なまら痛かった件  作者: 大原英一
第二部 岩元恵美
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本を読む

「一緒に買い物へ行かれますか? ミス・チーノ」

「あ、い……いいえ、私は遠慮しておきます。読まなきゃいけない本もあるし」

 猫人間の誘いを恵美はことわった。

 外の世界がどうなっているか、たしかに興味はあった。このあいだのパン屋のことも気になっていた。


 だが、いま外出してもきっと混乱するだけだろう。

 さきに知識を得よ。ひとみさんはたぶん、そういう意味で本を渡してくれたはずだ。


「そうですか。では、のちほど」

「いってらっしゃい」

 恵美は手をふって猫人間を送り出した。ふう。ファンタジーだ。ファンタジーすぎる……。


 とはいえ、すぐに読書という感じにもなれなかった。闇の世界ちゃうやん、そのことが恵美の頭を支配していた。

 いま、ひとみさんは眠っている(はず)。お日様は顔を出している。

 まるで月と太陽みたいだ、と恵美は思った。片方が起きているとき、もう片方は眠っている。


 そりゃ、ひとみさんにとって世界は闇に包まれているだろう。ま、いっか。考えても仕方なかった。


 ようやっと恵美は読書にとりかかった。表紙をひらくと、いきなりわけのわからないアルファベット群が目に飛び込んできた。

 いちおう義務教育課程を修了している恵美には、それが英語でないことだけはわかった。

 何語だろう……フランス語? ドイツ語?

 フランス語である可能性は高かった。だっていままで、ずっと19世紀フランスのノリできていたからね!


 ひとみさんは、これが読めたのだろうか? そりゃ読めもしない本をヒトにすすめたりはしないだろう。

 だが問題は恵美にそれが読めるか、でしょう。ん? よく見ると本に栞のようなものが挿んであった。

 メモみたいなものが挿んであった。そこにはこう書かれていた。


『翻訳のおまじない。表紙に描かれた太陽のマークを指でこすってね。ひとみ』


 恵美はその指示にしたがった。すると、ウソのようにすらすらと文字が読めるようになった。うーん、さすが魔女……。

 とまれ一度文字を追いはじめると、おそろしい速さで本の内容が頭のなかに雪崩れ込んできた。

 恵美にとってそれは、なんかすごい体験だった。スピード・ラーニングってやつ?


「むかし、おおきないくさがあった。

 黄色の軍勢、緑の軍勢、赤の軍勢がしのぎを削っていた。

 黄色の軍勢と緑の軍勢は、あるとき手をむすんだ。猫人間の里を攻め落とすのが目的だった。

 猫人間は不思議な道具や術をつかう種族で、これを支配すれば戦で優位になるという算段が黄と緑両方にあった……」


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