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十円玉が、なまら痛かった件  作者: 大原英一
第二部 岩元恵美
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フレンズ

「あの……私、佐藤さんをおいて出て行ったりしませんから」

 恵美は立ち上がって言った。

「そう。それじゃアタシと友だちになってくれる?」

 佐藤さんは嬉しそうに、そう聞いた。

「はい」

「恵美ちゃん」

「はい?」

「佐藤さんなんて他人行儀はやめて。ひとみって呼んで。ひーちゃんでも、いいわ」


 恵美はまた顔を紅潮させた。ひーちゃんなんて、とんでもない!

「じゃ、じゃあ、ひとみさんで……」

「ヤバイ、激ねむだわ。それじゃ、ね」

 そう言ってひとみさんは、猫を連れて寝室へと入ってしまった。


 ひとみさんから渡された本をまえに、恵美は背筋を伸ばした。いったい、どんな内容の本なんだろう。

 たしか歴史がどうとか、言ってたよな……。

 と、そのときドアの開く音がした。ひとみさんの寝室のドアだった。が、なかから出てきたのは彼女ではなかった。

 猫人間だった。


「ごきげんよう、ミス・チーノ。……おや、せいがひと回り小さくなられた?」

「あ、あわわ」

 恵美は思わずパニクった。深呼吸して落ち着きを取り戻す。


「あの、私、ミス・チーノじゃありません」

 ミス・チーノ? と恵美は一瞬考えた。この家の主人であるひとみさんの、ニックネームか何かだろうか。

「ミス・チーノではない? ならばワタクシは失礼します」

 猫人間はものすごいドライな感じで、玄関へ向かおうとした。

「あ、あの、どちらへ?」


 この闇の世界で、いったいどこへ行こうというのか? 気になって恵美は思わず聞いてしまった。

「失礼。ミス・チーノ以外のかたと、お話しできないのです」

 とりつく島がなかった。だが、ネタ振りのようにも思えた。


「あ……えーと、私、ミス・チーノです」

「これはこれは、」

 猫人間の態度が豹変した。

「ごきげんよう、ミス・チーノ。……やはり、ひと回り小さくなられた?」

 なんでもアリか。恵美は苦笑した。


「ちょっとお聞きしたいんですけど、そうだ、あなたのお名前は?」

「これは申し遅れました。ワタクシ、ベニ・ショーガと申します」

「私は岩……」

 違う違う違う! 私はミス・チーノだった……あやうく岩元恵美と自己紹介しそうになった。

「げふん……えっと、これからどちらへ?」

「食料の買い出しやら、諸々です」


「買い出しって、外は真っ暗じゃなかった……かな」

「そうですか?」

 すると猫人間はつかつかと玄関まで行って、ドアを開けた。


 ドアのむこうは陽がさしていた。どういうことだ、いったい……。



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