まじかるぅ
顔を紅潮させて恵美は頷いた。なんだろう、めっちゃ恥ずかしい……。まるで頭のなかの妄想を覗かれたみたいだ。
「あの、私、寝言かなにか言ってたんでしょうか……」
「いいえ」
佐藤さんは首をふった。
「あなたが見た猫人間は本物の、アタシの召使い。馬車を駆ったり、力仕事が必要なときにだけ、あの姿に変えるの」
そう言って彼女は、足元の猫を抱き寄せた。
「なーご」
「まさか、その猫ちゃん、ですか」
「驚いた?」
いやいやいや……驚いたとか、そういうレベルじゃないっしょ。
「あなたは、いったい……」
「恵美ちゃんくらいの歳だったかな、アタシも、それくらいのときに迷い込んだの。この世界に、いきなり」
佐藤さんはいま、おいくつなんだろう。20代前半のようにも見えるし、30代と言われても納得してしまいそうだ。
いずれにしても、けっこう長いこと、この闇の世界に住んでいるらしい。やはり彼女は先輩だったのだ。
「さっき、夢が実体化するって話をしたでしょう?」
「え、はい」
あの、干からびた小川で拾ったガラスの瓶。あれが恵美にとって、夢が実体化したものだと佐藤さんは説明した。
「アタシの場合はね、その実体化のレベルが半端なかったの。必要なものはすべて手に入ったし、ものだけじゃない、力っていうのかな……」
すると佐藤さんの指先から炎が迸り、ポットを支えている網台のしたで燃料となって燃えさかった。
「お茶にしましょっか」
恵美は硬直したまま、なにも言えなかった。魔法だ。完全に魔法ですよ。
すると佐藤さんは魔女で。魔女の淹れたお茶なんてこわくて飲めるか……いや、さっきたらふくシチューをいただいちゃったしな。
「アタシのことが、こわい?」
ティーカップをすすめながら佐藤さんが聞いた。
「……いいえ」
恵美は俯き、答えた。正直、よくわからなかった。
たとえ魔女でも、その助けなしにはこのさき生きていけそうにない。闇の世界で、あるいは廃墟の町で、彷徨って死ぬのだけはごめんだった。
「ああ、眠い。とても眠いわ」
佐藤さんは大きな欠伸をした。
「……あ、ごめんなさい。どうぞお休みになってください」
「そうするわ」
「ね、恵美ちゃん」
佐藤さんは席を立ちながら言った。
「はい」
「あなたがここを出ていくのは自由よ。でも、そのまえに、この本だけでも読んでみない? 歴史的なこととか、書かれてあるから」




