同郷の人
ベッドのうえで恵美は目覚めた。時間の感覚がすっかり狂っていた。
身体はだいぶラクになっていた。誰かに助けられたのだということは、わかる。だがけっこう眠ったはずなのに、まだ朝になっていないようだ。
それとも、昼間もぶっ通しで眠りつづけていたのだろうか?
とりあえずベッドから起き出してみる。と、恵美は自分の服装が変わっていることに気がついた。タンクトップにえらく丈の短いジーンズのパンツを穿いていた。
殺風景な部屋だった。ベッドとテーブルがひとつあるだけ……テーブルの上には弱い光を放つランプと、ガラス瓶の水筒が置かれていた。
水筒は恵美の唯一の持ち物だった。あ、それと○ッキーの腕時計も、まだ彼女のうでに巻かれていた。
窓はあったが外の景色が見えなかった。月もない夜なのか、それとも森のなかにこの家は建っているのか。
恵美はおそるおそるドアを開けた。すると、もうすぐそこがべつの部屋だった。見た感じ居間のようだった。
そこに、たぶん恵美を救ってくれた人物と一匹の猫がいた。
「気がついたのね。お加減はいかが?」
その人物は女性だった。黒髪の美しい女性で……日本人だろうか。
「あ、はい」と恵美。「助けていただいて、ありがとうございます」
「なにか食べられそう?」
「あ……はい」
正直、めっちゃお腹が空いていた。こうなったらもう、とことん世話になってしまえ。恵美はそう思った。
黒髪の女性はアツアツのシチューをふるまってくれた。涙がでるほど、おいしかった。パンも一緒に出してくれた。
がっつかずに食事をするのが、これほどむずかしいとは、恵美は思いもしなかった。
せわしなく手を動かす恵美を、女性はうれしそうに見ていた。
「お名前、聞いていいかしら?」
「……あ、い、岩元恵美です。日本人です」
「そう。アタシは佐藤ひとみ、よろしくね」
恵美はあまりにラッキーすぎる展開に感動した。まさか、こんなところで同郷の人に助けられるとは!
だが、なにから話していいか、わからなかった。信じてもらえるかどうかも。それでも、ありのままを話そうと恵美は思った。
「あの、私、とつぜんこの土地へきてしまったんです。日本にいたはずなのに、いきなり……」
言葉にすると泣きそうになった。そんな理不尽なことがあっていいものか。でも佐藤さんは意外な反応をした。
「ここは、どこだと思う? 恵美ちゃん」




