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十円玉が、なまら痛かった件  作者: 大原英一
第二部 岩元恵美
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無関心の町

 すると女将は恵美の腕時計を物色した。そしてそれをカウンターに置き、がさごそと袋にパンを詰めはじめた。

「さあ、これを持って、さっさと出て行っておくれ」

 女将は恵美に、パンの入った袋と腕時計の両方を突き出した。

「えっ」


 わけがわからない、といった風の恵美に女将が言った。

「そんな品、こわくて受け取れやしないよ。でもあんた、どうせ断ってもしつこく付きまとうんだろう? 腹が減ってりゃ、そりゃ必死なのもわかる。だからさ。そのパンは売れ残りだから、くれてやるよ。そのかわり、金輪際アタシとこの店にかかわらないでおくれ。約束だよ!」


「あ……ありがとうございます」

 とにかく食料をゲットできた恵美は頭をさげた。

「さあ、それを持ってはやくこの町を出るんだよ」

「えっ」

 冗談でしょ、と恵美は思った。すでに脚は棒のようで、一歩も動ける状態じゃなかった。だが女将は容赦なく言った。

「いいかい、この町の人間は皆、他人には無関心なんだ。ぜったいにこの町で夜を明かしちゃいけないよ? それだけは忠告しておく」


 背中を押され、有無を言わせずに恵美は店から出されてしまった。ドアを施錠する音とともに、店内はカーテンで閉めきられた。

 もはや恵美の頭は正常に機能しなかった。とりあえず食事だけは済ませてしまおう。もう一歩たりとも動きたくなかった。


 噴水のほとりで、恵美は無心になってパンにかじりついた。途中、喉が詰まりそうになるのを水で流しこんだ。あのガラス瓶の水筒が、ここでも大活躍だった。

 食事を終えると強烈な眠気が恵美をおそった。無理もない。今日は一日中歩きどおしだったのだ。

 すでに宿屋をさがす気力もなかった。ってゆうか、ぶっちゃけ、身体が動いてくれなかった。噴水を背に体育座りした状態で、恵美は眠りに落ちて行った。



 途中、不規則な振動で目を覚ました。恵美は横になった状態で寝かされていた。身体には毛布のようなものが、かけられている。

「ここは……どこ」

 恵美はかすれる声で言った。

「安心して、いまはおやすみなさい」

 ぼんやりとした人影が言った。それでふたたび恵美は眠りについた。ガタゴトという振動がまるで揺りかごのようで、妙に心地よかった。


 つぎに目覚めたとき、恵美は誰かに抱きかかえられていた。その人物は恵美をベッドまで運んでくれたらしい。

 去り際に、その人物の横顔がちらっと見えた。猫だった。猫人間が助けてくれたのだ。

 ああ、なんだ夢か。そしてまた眠りのなかへと沈んで行く……。

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