ハイグレード
最後にいちばん重要な質問をした。避けては通れない問題だ。
「おまえは武器を持っている、そしてオレのところにも同じようなのが送られてきた」
言いながらオレはサイドボードに近づき、例の箱を取り出した。
「ようするに、誰かと戦わなくちゃいけない状況ってことか?」
「……そうね」
メグは表情も変えずに言った。
やっぱり、と思いつつオレは続けた。
「オレは社会人で、仕事をして生活している。やっぱそういうのも、ぜんぶ、捨てて行かなきゃダメか」
「……そうね」
彼女が言った。ほんのすこしだけ寂しそうに。
オレは大きく深呼吸した。そして言った。
「よし、わかった。……で、これからどうすればいい」
「とりあえず、着替えて」
「ふつうの格好でいいんだろ?」
オレが確認すると、
「あ、そうじゃなくて」と彼女は手をふった。どういうことだ?
「ごめん」
言うが早いかメグはオレに銃口を向けた。そして銃爪を引いた……らしい。眩しくてなにも見えなかった。銃口がぱっ、と光った気がする。
「うっわ、なんだこれ」
つぎの瞬間にはもう、お召し替えが済んでいた。
……ダサい。あえて言おう、全力でダサいと。
オレが身にまとっていたのは未来の服だった。誰もが口をそろえて、あ、それは未来の服ですねと指さしてくれるようなやつだ。貸本時代の未来像だ。
当然オレは茹蛸のように真っ赤になってメグに抗議した。
「しょうがないでしょ、こういうデザインなんだから! 弾をもはじく超強化素材なのよ?」
逆ギレする彼女に、オレはなおも食い下がった。
「おまえ、着てないじゃん」
「着てるわよ!」
「どこが?」
すると彼女の薄い胸元から、健康そうな太腿のあたりから、にうーっとメタリックな生地が伸び出してきた。なるほど、伸縮自在なのね。
「でもおまえ、それじゃいざ、ってときに腕とか脚を狙われるんじゃね?」
「その『いざ』は自分で判断するから、ほっといて。尾崎紀世彦だって年中モミアゲ伸ばしてないわよ?」
「尾崎て……おまえ歳いくつやねん」
まあ、いいや。メグがやってるみたく普段は下着サイズに縮めておいて、上から服を着込めばいい。
たしかに、いざ戦闘になったときに、全身装備にするのを忘れないようにしないと。
全身……っ、
「おいメグ、頭は? 顔は、どうやって護るの?」
すると彼女はフードをすっぽり被った。フード付きだったんかい、この服。
さらに彼女はバッグから、なにやらゴソゴソ取り出した。バッグの存在にいま気づいたわ。
「はい、ゴーグル」
言って彼女はそのひとつをオレに渡し、自らそれを装着した。フードのなかで一際大きなゴーグルがオレを見つめていた。