ガラス瓶
喉の渇きは限界に達していた。
いい加減なんとかしないと、死んでしまうぞマジで。恵美は若干血走った目で辺りを見回した。
いつのまにか麦畑を抜けていた。あいかわらず小高い丘はそこかしこに見えるのだが、そのひとつに、恵美はポプラ並木を見つけた。
きた……きたよ! あんなふうにポプラが並んでいるむこうには、きっと小川が流れているにちがいない。
あれ、なんかすごいデジャヴ……どこかで体験したようなシーンだ。
けれどいまはそんなことを言っている場合ではない。渇きを抑えられずに恵美は走った。
……うわー、やられた。ガセった。
ポプラのむこうは、たしかに斜面になっていたが、泉も小川も見つけることはできなかった。
この暑さで、とうに水は干上がっていた。ちくしょう、ヌカよろこびさせやがって……。
ん? やっぱすごいデジャヴだ。そうがっかりすることは、ないように思えた。もうすぐ嵐がやってくる。
ほどなくして、一陣の風が恵美の頬をなでた。するとあっちゅう間に黒雲が空に広がり、大粒の雨を落としてきた。
助かった。恵美はそのまま、ごろんと斜面に大の字になった。
と、かつて小川だったと思われる足元の地面に、恵美は鈍く光るものを見つけた。
ガラスの瓶だった。ありがたい、これは正直ありがたかった。
やっぱね、これでもいちおうレディですから? 天に口をあけて雨を飲むなんてね。
雨脚がつよくなり、恵美はちょっと寒くなってきた。ガラス瓶を拾いあげると、彼女は雨宿りできそうな場所をさがした。
足元にはもう水が溜まりはじめていた。とりあえず、恵美は元きた道をもどることにした。
さっきは気づかなかったが、道は森へとさしかかっていた。ちょうどいい、雨がとおりすぎるまで木陰で休ませてもらおう。
雨があがると、恵美はふたたびポプラのむこうへ行った。すげー、この短時間で小川ができあがっていた。
さっそく拾ったガラス瓶をつかって、水をたらふく飲んだ。
ああ、なんてうまいんだろう。いままで飲んだ、どんなペプシやバヤリスよりもうまかった。
恵美はいまさらながら、自分が制服姿であることに気づいた。カバンは、この高地を歩き出したときには、すでに持っていなかった。
なにか腹の足しになるものでも入っていないか、そんな期待をこめてポケットなどをまさぐった。たとえばキャンディとか。
なんか、それらしい感触が指先にヒットした。取り出すとそれはコルクだった。
コルク? なぜこんなものがポケットに……。
ひらめいて、さっき水を溜めこんだガラス瓶にコルクを挿してみた。ぴったりだった。因縁めいたものを恵美は感じた。




