行軍
オレらは重い腰をあげて廃墟コンビニをあとにした。オレにとって、この世界ではじめて見る「外」だった。
ベニ・ショーガ氏の里であるネ・コミュニティーまでは、歩いて半日はかかるそうだ。
クルマやバイクといった文明の利器も、あるにはあるが、少なくともいまは誰も持っていない。猫人間はそんな意味のことを言った。
ヒッチハイクできる状況でもなさそうだ。人っ子ひとり、見かけなかった。
「人間を見かけることは稀です。ワタクシのように里を出ている猫人間は、たまにすれ違います。いずれにしても用心してください」
ベニ・ショーガ氏はフードを被りつつ言った。そういえば、フード付きだったねその未来服……。
おかげさまで、いつ誰に襲われるともしれない状況にも、もういいかげん慣れてきた。
いまはベニ・ショーガ氏という剣の達人がついているし、究極の羅針盤とも言えるメグもいる。ぜんぜん心強かった。
空はどんよりと曇っていた。まちはゴーストタウンのように、ひっそりとしていた。
「ここは、なんていう街なの?」
オレは猫人間に聞いた。
「よくしりませんが、チョーフ市というらしいです」
チョーフ市ね、どこかで聞いたような地名だ。
「人間の街?」
するとベニ・ショーガ氏は遠い目をした。
「かつて、あなたはそう言っておいででした。ここはワタクシが里を出て、はじめての人間……ヨーメンマンとミス・チーノに出会った街なのです」
「なるほど」とオレ。「ゴメンな、オレらふたりとも記憶が微妙で」
「いいえ」
そう言って猫人間は黙ってしまった。
かつてのオレ、ヨーメンマン。かつてのメグ、ペペロンチーノ。このふたりがこの街でなにをしていたか、いまとなっては、わからない。
とにかく、いまのオレにあたえられた使命は猫人間たちと親しくなることだ。里のメンバーに加えてもらわないと、いけないのだから。
オレひとりだけ。
半日の行軍を終え、オレらは目的地である城砦都市にたどり着いた。
途中、一度だけ休憩をとり、廃墟コンビニからもってきた飲料と食料を消化した。
ベニ・ショーガ氏が門番みたいな猫人間に話をつけ、オレとメグははじめて城壁の内部にとおされた。護衛つきで。
塀の外からでは想像もつかないほど、都市内部は広かった。あの有名なテーマパークくらい、あるんちゃうかな。
都市の住人すなわち猫人間たちが、好奇の目でオレらを見る。なんか、歓声すらあがっているような……。




