お願い
不自然に盛られた小高い丘のうえに、塀で囲まれた監獄のような建物があった。このコンビニの窓からも見ることができた。
「あれがネ・コミュニティー……鉄壁の城塞都市です」
ベニ・ショーガ氏が教えてくれた。
オレは尋ねた。
「あすこまでガッチリ固めているってことは、日ごろから狙われているってことか?」
「そのとおりです。|四天王(彩)(フォーカラーズ)の手下を名乗る連中が、手を替え品を替えては、やってまいります。まあ、唯一の救いは、やつらの力が分散されていることですね」
「いっぺんには、襲ってこない?」
猫人間は頷いた。
「ええ。勢力間で、つねに小競り合いをしている模様です。ネ・コミュニティーのことは、手に入ればラッキーくらいにしか、たぶんどの勢力も考えていないのではないかと」
「ひどい」
メグがしずかに言った。そこには冷たい怒りがあった。
「さらに、ひとつ問題があります」
「その勢力争いに、サファイアのひとみは関与していません」
「え、マジで? |四天王(彩)(フォーカラーズ)なのに?」
オレが言うとベニ・ショーガ氏は苦々しい表情をした。
「彼女はいろんな意味で異質です。誰とも争わず、馴れ合いもしません。よく言えば一匹狼、わるく言えば胡散臭い存在」
「地下でブラックタイガーと、つるんでたじゃん」
すると、ちょっとだけ猫人間の顔がやわらいだ。
「そう、そのことは収獲でした。けど……けっきょくブラックタイガーも利用されただけに、すぎない。その後もゴーレムを使ったりしてワタクシたちに、ちょっかいを出してきたけれど、いまだにひとみ自身はその姿をあらわそうとしないですからね、不気味です」
オレらの方針としては、さきにサファイアのひとみを片づけたい。だが、彼女はどこにいるともしれず、それでいて、こちらの動きだけは察知しているようなフシがある。本当にめんどくせえ魔女だ。
「ベニーちゃん、お願いがあるの」
いきなりメグが言った。
「は、なんなりと」
「ベニーちゃんの里……ネ・コミュニティーに、シャラを置いてくれないかな」
「「ええええええーーーっっっ!!!」」
オレと猫人間、ふたり同時に叫んだ。
「ミス・チーノ……里の者は基本的に、人間を信用しておりません」
「そこを、なんとかっ。屈強なボディガードだと思って」
「おい待てよメグ、なんでオレなんだよ。てか、その言い草だと、オレだけ置いてけぼりみたいじゃねーか」




