ロープとタブレット
オレら三人は元きた方角へ地下空間を駆け抜けた。逃げたのだ。だって、またゴーレムに襲われるかもしれないからね!
ゴーレム製造機とおぼしき、あの釜を「二丁拳銃」で破壊しちゃえばいいんじゃね? というオレの提案は聖女さまにより、あっさりと却下された。
説明はあとで、ということらしいので、とりあえず一目散に走った。
さいわい、あの廃墟コンビニの真下にたどり着くまで、敵と遭遇することはなかった。
往きとおなじように、天井にはコンビニにつながる穴がぽっかりと開いていた。
「あれ、ロープ垂らしたままのほうが、よかったんじゃね? どうやって昇るのさ」
「おまかせあれ」
ベニ・ショーガ氏がドヤ顔で言った。てことは、たぶん、大丈夫なんでしょ。
猫人間はメグにことわって、彼女のバッグからロープをとりだした。だが、なにをとち狂ったか、それを天井の穴にまるごと放り込んでしまった。
「えーっ! ちょっと、なにやってんだよ……」
「なーご」
でたよ……ときどき猫の本性丸出しになるんだこいつは。て、あれ?
猫だ。目のまえに、紛うことなき猫がいる。ちっさい猫だ。
「いちおう聞くけど、こいつベニ・ショーガ氏だよな?」
「変身するところ、アタシにも見えなかった。あ、でも」
と、メグはバッグのなかを漁った。
「ほら、ベニーちゃんのタブレット端末。ロープを出すときに、かわりに入れたんだよ」
「……なるほど、大事に運べってか」
オレはたぶんベニ・ショーガ氏の猫ちゃんを抱き上げると、天井のほうへ掲げた。
すると猫ちゃん、けっこう強い力で、その後ろ足でオレの掌を蹴って天井裏まで跳び上がって行った。
待つこと数十秒。たらりと上からロープが垂らされた。
「ロープを固定しましたから、昇ってきてください」
ベニ・ショーガ氏が天井裏から顔をのぞかせて言った。まるで何事もなかったかのように……。
メグは野生児か、っていうくらいの身のこなしで、軽々とロープを昇って行った。あのでかいバッグを引っさげて、ですよ。どんだけハイスペックなんだうちの聖女さまは。
いっぽうオレは……こんなの小学生のときの昇り棒以来だし! 正直、昇りきるころには息があがっていた。
「あれっ、さっきここに、かわいい猫ちゃんが一匹入ってこなかった?」
オレは皮肉をこめて言ったつもりだった。
「ああ、あれはワタクシです」
「ふつうか、ボケていこうぜ」
「もっかい見たーい」
「そーお? ……じゃないですからミス・チーノ。よほどの場合じゃなければ、あれはやりません」