サファイアのひとみ
「知っているのか?」
だが彼女は首をふった。
「……わかんない、いきなり頭に名前がうかんだ」
名前? この銅像のか、それともモチーフとなっている女神さまの名か。復活したばかりのメグに、これ以上聞くのは酷だった。
「おいベニ・ショーガ氏、どういうこと?」
困ったときの猫頼み、いや猫人間頼みである。
ベニ・ショーガ氏は壇上から降りてきて言った。
「ブラックタイガーは|四天王(彩)(フォーカラーズ)のひとりと、密かに通じていたようです」
そして彼は銅像を指さした。
「サファイアのひとみ、です」
……はあっ!?
「それ人の名前だったのかよ!? ……風車の弥七とかビー玉のお京みたいな」
「ヘンですか」
猫人間は目をぱちくりさせた。
「サファイアだから青系統だってのは、わかるけど、宝石だし……ひとみ、て。ホステスか」
このぶんだと四天王のほかの面子もグダグダなんだろうな。
「……まあいいや、で、そのひとみちゃんとブラックタイガーが通じていたらマズいの?」
「非常に。というのも、サファイアのひとみはおそろしい魔女です。ブラックタイガーにいろいろな魔術を伝授したのも彼女でしょう」
ベニ・ショーガ氏は祭壇からかっぱらってきた書物をひらいて、つづけた。
「やはり、聖女の生成法が記されています」
「マジで?」
その書物に目をやったが、文字がさっぱりだった。
「なんて?」
「ようするに、」猫人間はひとつ咳払いをした。「さっきあなたが推測したとおりです。ブラックタイガーは十円玉を必要としていた。それに魔力を込め、ミス・チーノのからだに撃ち込んだ。すると彼女のからだは顆粒状になり……あとは我われがやったとおりです」
オレはベニ・ショーガ氏の唱えた陳腐な呪文を思い出した。
「チンプルリンのポイ、か」
「チンプルルルリンのポイ、です」
「どっちでも、ええねん! ……あ、それ危険な呪文じゃなかったの?」
「さっき二度目を使ってしまいましたから、もう使えません」
「あ、そ。……で、なんの話だっけ? あっ、そうだ、十円玉て。なんでそんなものが必要なんだよ」
「これによると……」猫人間は書をパラパラとめくった。「異世界の物質であれば、なんでもオッケーみたいですね。汚ったない十円玉でも」
「汚ったない言うな」
まったく、この猫人間はだんだんと口がわるくなる。ま、オレが言うのもあれですけど!
「異世界……」
あきらかにオレが元いた現実世界のことだろう。
「いちおう聞くけど、この世界に十円玉ってないの?」




